日本3百名山ひと筆書き~Great Traverse3~|(41)日高山脈縦走~羅臼岳

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日高山脈縦走

421日。朝6時半、ずっしりと身体に食い込む100リットルのバックパックを背負い、宿を出発。総重量はなんと42㎏!こんなに重いバックパックを背負い縦走することは初めてのこと。1日目の今日は、登山口まで30㎞を歩きます。14時に1日目の行程を無事に終了。背負うだけで汗が出るバックパックを、しばしの間下ろすことができます。明日からいよいよ日高山脈主稜線へと上がります。

422日。5時半前に北戸蔦別岳登山口を出発。二ノ沢出合いから夏道を外れ、1533mのピークへと直登する急斜面の尾根へと入りました。標高差700mの一気登り。荷もかなりの重量のため、ペースはゆっくり一定に、足元へ注意を払いながら2時間半でこの縦走で一番長い登りを終了。森林限界から上は、風が弱まる気配はなく、山肌を雪煙上げながらものすごい風が抜けていきます。そして、風で磨かれた、白く輝く主稜線が間近に迫ってきました。そこから、主稜線まで1時間半程で合流。北戸蔦別岳は山頂直下をトラバースして、戸蔦別岳へ向かいました。戸蔦別岳との間は岩稜となり、一歩も気が抜けません。緊張と不安がこの日一番に。さらに1時間ほどで戸蔦別岳を越えて、目前に縦走一座目となる幌尻岳が太陽の日差しを浴び輝いていました。幌尻岳は主稜線から外れているため、戸蔦別岳直下のビバーク地にイグルーを作り、荷の半分以上をこの中に置いて、しばしの間軽くなったバックパックを背負い山頂へ向かいました。左手には眼下に七つ沼カール、遠くには明日以降縦走をして行くカムイエクウチカウシ山までの長い道のりが見えます。1545分、日高山脈縦走一座目の幌尻岳に登頂。眼下の美しいカールの先に、どこまでも続く日高山脈主稜線の眺め。短い間ですが山頂からの景色を堪能しました。

423日、予報通りに早朝から素晴らしい天気。準備を整えて、630分に出発。この日の最大の難所はエサオマントッタベツ岳を越えること。日高北部の神威岳を越えて一休みし、手前から細く長い主稜線となりました。今にも落ちそうな雪庇をいくつも慎重にかわしながら、距離をつめます。標高差300mの急斜面を登りきると、昨日は霞んでいた南部の山々も見えてきました。その中で、明日登る計画のカムイエクウチカウシ山が、一際異彩を放っているよう。険しい。同じ日高の山なのに幌尻岳や今いるエサオマントッタベツ岳とは明らかに違う雰囲気が、遠くはなれていても伝わってきました。札内ジャンクションピークを下部でトラバースし、そこから、さらに2㎞ほど進んだナメワッカ分岐手前の鞍部がイグルー2泊目のビバーク地。明日は朝から険しい岩稜が続くため、今日までのようにスノーシューで比較的スムーズに進むことが困難となります。毎晩、床に着きながら、翌日のルートを地図で確認するのですが、明日は間違いなく、縦走前半で一番の難所が続く1日となりそうです。

424日。今日の一番の目的はカムイエクウチカウシ山への登頂。そして、無事に難所を抜けて、ビバーク予定地にたどり着くこと。昨日よりも出発時間を1時間早め、530分に出発。ナメワッカ分岐を過ぎると早速春別岳への岩稜が始まりました。足元をスノーシューからアイゼンに変えて、ふぅーと深く息を吐き、一歩目を踏みました。主稜線を挟んで東西どちらにも落ちてはいけない状況が、カムイエクウチカウシ山の直前のピークまで続きました。四肢全てに気を払い、時間を忘れて集中。一つまた一つ、大小のピークを越えては下り、また登り返します。春別岳の先にある、1917峰まで来ると、一気に目指してきたカムイエクウチカウシ山が大きくなりました。ジャンクションピークまでは休憩を挟みながら少しずつ前進。山頂までひと下り、ひと登りとなってからはどんどん前進。日高山脈の最高峰は幌尻岳ですが、主稜線ではこの山が一番。優しさを感じる幌尻岳が母ならば、険しさを露にしたカムイエクウチカウシ山は日高山脈の長だろうか。最後のひと登りを、息を切らし登りきると、幌尻岳以上の達成感が湧いてきました。この日は本当に最後の最後まで気を抜くことができませんでした。無事ビバーク地に到着したとき、縦走前半部を乗り切れたことを噛み締めました。

426日。停滞から一夜明けると、イグルーの外は別世界に。積雪は予報の倍以上。30センチはありそうです。濃霧が晴れるのを待って、550分に出発しました。一昨日までは、頭を出していたハイマツや岩もすっぽり雪に覆われてしまった。勢いよく踏み出すと、ハイマツにアイゼンが引っ掛かったり、岩に当たりバランスを崩しそうになったり。思いもよらぬ神経質な前進は標高1700m付近まで続きました。それよりも上部は雪の状態が良くなり、歩きやすくなりました。しかし、1823m峰とコイカクシュサツナイ岳間、コイカクシュサツナイ岳とヤオロマップ岳間でも、標高は1500m前後まで下がり、その度に一歩一歩、足元に注意をしなければならない状態が続きました。前日の停滞が結果的には功を奏し、この日のビバーク地までラッセルを頑張りきることができました。

427日。今日はペテガリ岳に登頂予定。出発は6時前。早速ヤオロマップ岳から1600m峰までの区間が東西に主稜線が屈曲していて、足元が悪く緊張の強いられる場面が続きました。進めば進むほど、身体がますます重くなり、ペースがここまでで一番遅くなってしまいました。なんとか1600m峰までたどり着き、そこで1時間近く休憩を取ることに。このままのペースではペテガリ岳までたどり着けません。風下側で太陽の光を浴びて身体を温めていると少しずつ元気が戻って来るのを感じます。序盤こそはガクンとペースが落ちましたが、中盤以降はいつも通り力強く縦走。ペテガリ岳の前衛峰のようなルベツネ山に登頂すると、ペテガリ岳まではあと少し。1330分、ペテガリ岳山頂にたどり着きました。山頂からは昨日よりもさらに遠く小さくなったカムイエクウチカウシ山が見え、南を向けば、明日登頂予定のどっしりとした神威岳が見えます。ペテガリ岳山頂直下の最終ビバーク地へと下りました。

428日、最終目的地の神威岳へ。ビバーク地から見る神威岳は、これまで以上に遠く感じます。ここまでは平均200m前後のアップダウンでしたが、ペテガリ岳と神威岳間は300m以上のアップダウンが連続します。主稜線が見えない区間が多いため、遠く感じるのでしょう。出発から、3時間で中ノ岳到着。そこから先は景色が一変。雪がほとんどなく、ハイマツが広がっています。ハイマツをかき分け、1372mの岩峰を越えているときにアクシデントが発生。ハイマツに足が引っ掛かり、5メートルほどハイマツの上を転がり落ちました。運良くハイマツがクッションとなり、打撲と擦り傷だけですみましたが、一歩間違えれば大変なことに。12時にニシュオマナイ岳を出発。それから1時間45分後、日高山脈4座目、縦走最終目的地、神威岳山頂に到着しました。「会いたかった!」独特な山頂標識に抱きついてしまいました。不安と緊張ばかりで、ほとんど自信がなかったですが、無事にここまでたどり着けて安堵。「ありがとうありがとう日高山脈」

羅臼岳

527日、5時半過ぎに羅臼町のビジターセンターを出発。今年はこちら側から登った登山者の情報は無いそうで、残雪の状態や登山道、熊の目撃情報等も皆無。久しぶりの快晴に心が弾みます。チャリンチャリン、じゃらじゃらと鈴の音に合わせ、「ほぉーわ!」とかん高く発声。途中の立ち木に真新し爪痕を発見するも、時々笹の中からガサッと音を立て逃げていくエゾシカと遭遇するだけでした。出発から2時間半で泊場に到着。見上げる先には屏風岩と大雪渓の急斜面、そしてハイマツが生い茂る山頂が見えます。泊場からは雪道に。見えない夏道を外さないように、適宜地図で確認しながら、屏風岩直下まで進みました。近づくと触らなくとも固そうなのが分かります。1ヶ月ぶりにアイゼン歩行、急斜面を一歩一歩蹴り込み登ります。息も絶え絶え、休み休み、2時間ほどで主稜線まで登りきりました。主稜線から見る景色は初めて。ハイマツが生い茂り、知床半島を根室海峡とオホーツク海が挟み込んでいます。さらに30分、ゴツゴツの岩をよじ登り、雪渓の急斜面を2回越えて、出発から5時間、羅臼岳に登頂しました。山頂で昼食を食べながら、雄大な知床の今の表情を眺めました。

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