日本の国立公園の山の魅力|大雪山

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大雪山に思う。

北海道のほぼ中央部に位置する大雪山国立公園は、北海道最高峰「旭岳」を擁することでも有名です。豊富な自然に恵まれて山麓には旭岳温泉、天人峡温泉、愛山谿温泉など温泉も多数あり自然の懐に抱かれる心地よさを味わえます。山を愛する「岳人」であれば一度は訪れたいところです。
ではありますが、侮ると手痛いしっぺ返しを受けます。大雪山は北海道の屋根といわれ、主峰旭岳を中心に黒岳・北鎮岳・北海岳・永山岳・安足間岳・比布岳などの連山の総称です。そして多くの登山者が訪れます。その分、遭難事故も多くあります。大雪山遭難で思い出すのは、連山のひとつトムラウシ山の遭難で総計10人が次々と疲労により低体温症で死亡した遭難事故がありました。これはニュースで散々取り上げられましたので今更説明するまでもないのですが、知らない方もおられると思いますので概要だけ説明しておきます。

★トムラウシで18人パーティーが遭難

ガイドツアーで2009年7月14日~16日のスケジュールで旭岳から入山しトムラウシ温泉に下山する計画であったが、天候が悪化、雨と強風にさらされる中、登山を強行したために18人中ガイド一人を含む8人が低体温症により死亡するという大参事となったケースである。さらに、このツアーパーティ以外にも単独登山者1人と十勝岳で6人パーティーのうちの1人が低体温症となり、合計10人が同じ山域で死亡した遭難事故となった。
この時の遭難事故検証は後日、日本山岳ガイド協会から出版されているので一読してほしい。www.jfmga.com/pdf/tomuraushiyamareport.pdf

遭難の原因はいろいろ考えられるが、生存者がいたため詳細な実態が解明され分析がされている。

<原因>

  1. 天候の悪化が予報されていたにもかかわらず商業登山であるために強行した
  2. ガイドの判断に誤りがあった
  3. 防寒、防風対策が不十分であった

などが考えられ、ツアー登山の弱点が現れた遭難だったといえる。

他にも山のミステリーにもなったSOS遭難事件もありました。これも当時「自殺か他殺か」と週刊誌でも話題になった事件・事故です。

★SOS遭難

1989年7月24日、場所は主峰旭岳の南側の湿地帯。登山者2人が遭難したという通報で道警ヘリコプターが上空より捜索していたところ、白樺の木で地上に作られた「SOS」の文字を発見、そして遭難した2人を発見し救助。遭難者に聞くと自分たちはそのようなものは作っていないと証言し、他にも遭難者がいるのではないかと大騒ぎになった。その後、白骨化した人骨と遺留品の音声テープが発見され、その音声テープには男性の声で「崖の上で身動き取れず SOS 助けてくれ」と。そして人骨の鑑定結果、「人骨は女性のものである」とされ更に謎が残った。
いったい誰が「SOS」を書いたのか、女性の遺留品はどこにあるのか、男性の遺体はどこにあるのか、5mの白樺の木でSOSを組み立てる体力があるならなぜ元に戻らなかったのか、など疑問が残るばかりであった。
その後、現在では謎は残っているものの最新の医学鑑定で「男性の人骨であり、この男性が遭難して救助を求めた時に偶然テープレコーダーの録音スイッチが押されたのだろう」との結論が出されて事件性はなく、山岳遭難であるとの結論になっている(真相は本人しかわからないのですが)。

大雪山の稜線ばかりでなく、その懐を流れる渓谷での遭難も見過ごすことはできません。

★北海道随一の美渓谷での遭難

北海道は水に恵まれているので美しい沢が数多くある。トムラウシ山と化雲岳のコルを水源とするクワウンナイ川、この川は中流部に「滝の瀬十三丁」と称される水コケに覆われたナメの続く沢である。しかし自然とは過酷なもので、この美しい沢がひとたび荒れ狂うと想像を絶する沢となることを知る登山者がどれほどいるだろうか。
場所は、旭川からバス(天人峡温泉行)で道道213号線を天人峡・旭岳ロープウェイ方面に行き忠別湖を通り過ぎて旭岳ロープウェイとの分岐を天人峡へと向かい、クワウンナイ橋で下車、そこが入渓地点。ここから遡行が始まるが沢の中で最低でも1泊する装備が必要である。滝には巻き道が豊富なため初心者を含むパーティーの場合でも、巻き道を使って進むことができるので安心できる。
前述のように、このような美しい沢でも一度荒れると手が付けられなくなる。
1995年8月1日時刻は不明、旭川市内はその前後から雨模様の天候であった。
男女2人のパーティーは7月29日旭川駅をバスで出発しクワウンナイ橋で下車、その近辺にテントを張ってこの日は宿泊。翌日シトシト降る雨の中を化雲沢の出合まで進むもそこでテント泊。翌日は雨なので停滞をしている。そして運命の8月1日、雨は続いていたが6時30分ごろ出発、そして8時ごろ普段なら沢の中で最も美しいといわている「滝の瀬十三丁」に差し掛かる。ここからは推測になるが、思ったより水かさが増えていて躊躇するも渡渉をすることとする。やはり身の危険を感じたのかロープを出すが、流されるとは思わなかった。しかし美しいナメの中心部には所々一枚岩の真ん中に穴が開いていることまでは知らなかった。
通常なら水が透明なので穴を避けることはできるのであるが、この穴に足を取られて先頭が流され、ロープは持っていたかハーネスには固定されていなかった。そして確保者はロープに引きずられるように流されてしまった。後続のパーティーが登っていると「赤い雨具」が流されるのを目撃している。そしてさらに登ると女性の遺体が浮いていた。
それを収容し、これ以上流されないようにスリーピングバッグに入れてロープで固定した。しかしその間にもドンドン増水して自分たちのパーティーも危険を感じて、沢から離れて藪漕ぎをして難を逃れた。しかしもう一人の男性はいない、この男性は遭難の連絡を受けた警察救助隊によって事故現場から1.5kmはなれた下流の大岩の下から発見された。
救助隊の話によると、「捜索しながら登っていると、大岩の水たまりに青いザックが浮いていたので、それを回収した、そうすると何かに引っかかって引き上げられなかった。よく見るとザックの先には手がついていて、本人の遺体であることがわかった。」とのこと。
遺体は事故現場から1.5kmも流されて大きな滝を4つも越えて大岩と共に流され、大岩の下敷きになって止まった。

これはその後の事故検証の報告書で推測された状況です。

★自然を侮るな!

わたしたちは美しい自然に癒されて、明日への希望をつなげています。しかしその自然も人間の傲慢さには容赦しません。時としてとんだしっぺ返しのプレゼントがあります。
アメリカの人類学者ジャレド・ダイアモンドは「文明崩壊」の中で人類滅亡の歴史を5つの要素に分けて説明しています。その中の一つに「自然を蔑ろにする行為」を挙げています。
わたしたちは人類史の中での自然との対峙において最も弱い「人類」であると自覚し、文明を作ることにより生き残ることができたことを知るべきです、自然を理解し侮ることのないようにしなければなりません。

大雪山を思うとき、美しすぎる自然を感じ、そして自分を感じての所感です。

公益社団法人東京都山岳連盟**
遭難対策委員会委員・山岳救助隊
日本山岳救助機構合同会社***
社員 橋本利治

 

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