オサムの“遭難に遭う前に、そして遭ったら”|年末年始の遭難事故を振り返って

  1. ホーム
  2. > 自救力
  3. > オサムの“遭難に遭う前に、そして遭ったら”

発生件数・遭難者数は減少、死者・行方不明者は増加

前々回のメルマガでは、過去の年末年始の遭難事故を振り返り、この年末年始に山行を計画している登山者に注意を促した。で、実際の遭難状況はどうだったのか。

警察庁が1月19日に発表したところによると、昨年12月29日から今年の1月3日までの間に発生した山岳遭難事故は、前年より10件少ない30件で、遭難者数は22人少ない32人だった。要因別に見ると、最も多いのが道迷いの7人、次いで滑落6人、疲労5人、転倒4人、病気2人という順になった。死者・行方不明者については、昨年より7人増の8人。東京都で2人、栃木、群馬、山梨、三重の各県でそれぞれ1人が死亡し、山梨、奈良でそれぞれ1人が行方不明となっている。

年末年始の遭難状況は、天候や積雪量、世相などの影響を受け、年によってかなりバラツキがあるので、この数字から明確な根拠や動向を導き出すのは無理がある。ただ、年末年始の時点では全国的に積雪が少なかったこと、中部山岳では大晦日から元日にけて悪天候が予想されたことなどが影響し、標高の高い山では登山者の出足が鈍かったようだ。その一方で、あくまで個人的な印象だが、低山での事故が目立ち、結果的には「無事救出」される軽微な事故も多かったように感じる。

富士山、甲斐駒ヶ岳、五竜岳などで事故が発生

さて、そんな年末年始の遭難事故のなかから、気にかかったものをいくつかピックアップしてみる。まずは12月30日に南アルプスの甲斐駒ヶ岳で起きた事例。56歳と64歳の男性2人パーティは29日、尾白川渓谷登山口から入山し、黒戸尾根を登って山小屋に宿泊、翌日は午前6時ごろから黄蓮谷に入ってアイスクライミングを開始した。しかし、アイスクライミング中に周囲が暗くなり、体力も消耗したことから行動不能となり、救助を要請。警察などは翌朝から救助活動を開始し、午前9時半ごろ県警ヘリで2人をピックアップした。2人にケガはなく、低体温症なども発症してしなかったことから、病院に行くことなくそのまま帰宅したという。

アイスクライミングを終えたのち、2人が山小屋にもう1泊するつもりだったのか、その日のうちに下山する予定だったのかは不明である。ただ、アイスクライミングをするために黄蓮谷に入山するぐらいだから、2人にはそれなりの体力・技術・経験が備わっていたのだと思う。なのに、どうして日没および疲労により行動不能に陥ってしまったのか。なにか予期せぬアクシデントが起きたのか、あるいは実力に見合わない無理のある計画だったのか。また、ニュースを見て疑問に思ったのは、ビバークの装備は持っていなかったのか、ということだ。詳細はわからないが、ツエルトなどを使ってビバークをしていれば、救助要請をせずにすんだのではないだろうか。

同じ12月30日、富士山の富士宮ルートを単独で登っていた44歳男性が、9合目付近で転倒して右足を負傷し、自力で動けなくなって救助を要請した。通報を受けた警察はヘリを出動させたが、強風のため救助活動が行えず、警察と消防の隊員が地上から現場へと向かった。通報から約7時間後の午後4時半ごろ、救助隊が男性と合流し、およそ5時間かけて担架で5合目まで搬送した。男性は右足を骨折していたが、命に別状はなかった。報道によると、転倒の原因は「登山用具に足を引っかけた」とのことだが、それがアイゼンなのか、なにか別の登山用具なのか、気になるところである。

北アルプスの五竜岳では1月1日、単独行の28歳男性が五竜山荘のそばで停滞中に低体温症に陥るという事故が起きた。男性は12月30日に白馬五竜スキー場から入山、五竜山荘の横にイグルーを設けてベースとし、五竜岳に登頂して1月2日に下山する予定であった。しかし、五竜山荘まではたどり着けたものの、その後、天候の悪化により除雪が間に合わず、低体温症の症状も出はじめたため、1日朝に救助を要請した。男性は五竜山荘の窓を割って中に避難し、天候が回復した午後、長野県警のヘリによって救助された。

事故が起きた大晦日から元日にかけて、日本付近は低気圧の通過に伴い冬型の気圧配置となり、北アルプス一帯は大量の降雪に見舞われていた。長野県警山岳安全対策課は、この事故についてウェブサイト上で「事前の情報収集不足及び判断ミスに起因するもので、天候の悪化が予想されていたにもかかわらず、計画を強行したことにより遭難をしたもの」と指摘する。遭難者の男性もYAMAPに事故の詳細をアップし、悪天候の予報にも関わらず計画を強行した理由について「経験値を積みたかったから」と説明、反省点として計画にミスがあったこと、最悪の事態を想定できなかったことなどを挙げている。

多発する外国人によるバックカントリー中の事故

北海道の羊蹄山では、やはり1月1日に雪崩事故が発生している。この日の午前8時ごろ、羊蹄山南東斜面の標高1400メートル付近で、バックカントリーをするために入山していた6人パーティが雪崩に遭遇し、30代とみられるオーストラリア人男性が巻き込まれた。男性は流される途中で木に引っかかり、仲間に救出されて防災ヘリコプターで病院へ搬送されたが、左足を骨折する重傷を負った。

外国人によるバックカントリーでの事故はこのケースだけではない。12月30日、北海道の大雪山旭岳スキー場でコース外をスノーボードで滑走していた4人グループのうち、台湾籍の41歳女性が立木にぶつかり足を負傷、行動不能となった。仲間2人が下山して午後4時半ごろ警察に通報し、負傷者と付き添いの同行者は約7時間後に救助された。女性は足を骨折した疑いがあるが、命に別状はなかった。

北アルプス・唐松岳の八方尾根では1月2日、バックカントリーをしていたイタリア人3人グループから「道に迷った」と110番通報があり、翌3日、県警ヘリと地上からの救助隊が出動し、3人を発見した。しかし、隊員が現場に降下して救助しようとしたところ、「ノー・レスキュー」と救助を断り、3人は自力で下山したという。

この騒動は、元日に発生した能登半島沖地震の救助・救援のため、長野県警がやりくりに苦労しながら支援部隊を現地に派遣しているさなかでの出来事だった。県警はイタリア大使館に対して、「厳重な指導」を申し入れたとのことである。

余談だが、札幌市手稲区のスキー場近くでも1月21日、外国人スキーヤー2人がスキー場の管理区域外でルートを失い救助を要請し、警察や消防などが出動するという遭難騒ぎがあった。その後、2人は自力で下山し、そのままスキー場を車であとにしたらしく、スキー場には「In car.OKOK.Bye.」とだけ連絡があったそうである。

近年になって、外国人によるバックカントリー中の事故が多発しているが、今シーズンも新型コロナウイルスの収束ムードと円安を背景にしたインバウンドの拡大により、北海道や東北、信州などの主なスキー場に大勢の外国人が押しかけているという。そんななかで、バックカントリーやスキー場管轄外での事故があとを絶たず、1月下旬の現時点でも連日のようにニュースになってる。

ただ、それらのニュースを見ると、あまりに稚拙な事故が多いように感じる。察するに、バックカントリー目当てでやってくる外国人が遭難しているのではなく、観光でスキー場を訪れた外国人が、スキー場外に飛び出していって事故を起こしてしまっているのではないだろうか。そうした観光客にどう対応していくのかも、今後の課題だろう。

さて、暖冬・少雪傾向とはいえ、雪山登山とバックカントリーのシーズンはまだしばらく続く。これからの季節、暦のうえでは春でも真冬並みの猛吹雪に見舞われることもあるし、雪崩にも引き続き充分な警戒が必要である。しっかりリスクマネジメントを行なって、事故を起こさぬよう山を楽しんでいただきたい。

羽根田 治(はねだ おさむ)

1961年埼玉県生まれ。那須塩原市在住。フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を山岳雑誌などで発表する一方、自然、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『ドキュメント 生還』『人を襲うクマ』『山岳遭難の傷痕』(以上、山と渓谷社)など著書多数。近著に『山はおそろしい 』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)、『これで死ぬ 』(山と渓谷社)がある。

  • ジローへの入会お申込みはこちら
  • jRO会員ログイン
  • 好きな山の絵を額縁つきですぐに買える!山の絵つなぐサイト by jRO
  • 会員特典