雲から山の天気を学ぼう|(42)~自然の神秘 “雲海”~
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~自然の神秘 “雲海”~
これからの季節、盆地周辺の低山で見られることが多くなる雲海。文字通り、海原のように雲が波立つ姿を見ると、自然の神秘を感じずにはいられません。最近は雲海ゴンドラが運行される展望台もあり、労せずに雲海を見ることができるようになってきました。しかしながら折角、展望台にあがっても霧に覆われていたり、快晴で雲ひとつなかったりしたらちょっぴり残念ですよね。雲海が発生する条件を知っておけば、雲海が見られる確率が高くなります。今回は、そのためのミニ知識をご紹介していきます。
そもそも雲海とは何でしょう?眼下に海原のように雲が広がっている状態のことで、雲海を見るためには以下のような条件が必要になります。
- 自分が雲より高い場所にいること
- 雲の上は晴れていること
- 雲が比較的広い範囲に広がっていること
それでは、これらの条件がそろうのはどんなときでしょうか?雲海ができる仕組みについて解説していきます。
雲海ができる気象条件をまとめてみましょう。
- 地面(海面)に近い高度の空気が湿っている(雨の後など地面から水分が蒸発するときや、暖かい海の上など)
- 展望台より下に、大気が安定している層があること。
さて、下の写真はホテル千畳敷(2,610m)から見た雲海です。
この日になぜ雲海が発生しているか検証していきましょう。まず、この日の地上天気図を見てみます(図1)。
図1 雲海が出来た日の天気図
上図を見ると、関東の南東沖に低気圧があり、この影響で早朝まで雪が降りました(平地では雨になりました)。低気圧の通過後は等圧線の間隔が広がり、沿海州にある高気圧が北から緩やかに張り出しています。
雲海が発生する理由のひとつ目「地面(海面)に近い高度の空気が湿っている」に関しては、早朝まで雨や雪が降ったことで、水蒸気が残っていて地面から蒸発した水蒸気が空気中に溜まっていることが推測されます。また、理由の2つ目、安定した層については、雲の形状からその存在が分かります。写真1を見ると、Aの雲は雲頂が平らな形をしています。これが安定した層の存在を現しています。つまり、この雲を境にして下側に冷たい空気があり、上に温かい空気があります(通常は、上空に行くほど温度が下がるので、このように通常とは逆の温度変化をする空気の層を逆転層と言い、特に安定した層と言えます)。空気は本来、温かい空気の方が軽く、冷たい空気の方が重いので、冷たい空気が下に、温かい空気が上にある方が安定します。逆転層は、まさにそのような状態になっており、空気にとっては居心地の良い状態です。安定した層があると空気はそれ以上、上昇することができません。地面から上昇した空気は安定層にぶつかると、それ以上、上昇できずに左右に広がっていきます。そのため、雲の高さが一定になるのです。逆転層(安定した層)ができると、水蒸気はその層より下に閉じ込められますので、上方へ逃げていくことができず、それが朝の冷え込みで冷やされると雲粒や霧になっていくのです。
別の日の雲海の写真を見てみましょう。
この写真は、早朝に運行される雲海ゴンドラを利用して展望台に行ったときのものです。私はこの場所の雲海予報を発表しておりますが、当日は80%という非常に高い確率だったので、万が一外れたらまずいと思い(笑)、確かめに行ったのでした。結果は見事な雲海が見られてホッとしましたが、このときの雲海は千畳敷からのものと少し違います。奥の方の雲海は雲頂が平らで普通の雲海ですが、手前側は並を打ったような雲になっています。このような波をケルビン・ヘルムホルツ不安定による波といいます。雲を構成している空気の中で密度が大きく異なったり、風速が異なったりするときにできる波で、目視できるのは珍しい現象です。おそらく雲の下と上で密度差(温度差)が大きくなり、地面付近では左からの風、上部では右からの風と上下で風の速度や向きが大きく変わったことが原因していると思われます。
ちょっと難しい話になりましたね。実は、私にもよくわかりません(笑)。上空の空気の状態を観測した訳ではありませんので確実なことは分かりません。雲の動きや流れ、逆転層の存在、地形などを頭に入れてイメージした結果の推測です。
見えない空気を読むのはとても難しいですが、少しでもわかってくると、空気の状態が読めてきて面白いです。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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観天望気講座を書いている猪熊隆之や、ヤマテンの気象予報士が講師を務める「お天気講座」 を旅行会社などで実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。
入笠山 空見ハイキング
10月中旬の入笠山は、澄み切った秋空が広がることが多く、カラマツの黄葉も山頂付近では見ごろを迎える季節です。また、八ヶ岳、北アルプス、中央ア、富士山、甲斐駒ヶ岳など中部山岳の大パノラマが広がり、山が気象に与える影響を学ぶのにふさわしい場所です。雲が語ってくれる天気の変化に耳を傾けながら楽しく歩きましょう。
日程:10月19日(土) 日帰り 催行決定
講師:猪熊隆之
お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、トラベギャラリーにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。
那須連峰縦走 空見ハイキング
那須は強風による事故が多い山岳。稜線を縦走することで、風を体感し、強風時の対策や、天気図や観天望気から風の強さや向きを予想して登山のリスクを減らしていくことを学びます。那須の紅葉や、三斗小屋温泉での宿泊も楽しみ。
日程:10月26日(土)~27日(日)
講師:渡部均(予定)
お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、
アルパインツアーサービスにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。
http://alpine-tour.com/japan/2019_04/061c.html
北八ヶ岳 空見ハイキング
GEO(ジオ)八ヶ岳の一環として行うハイキングです。雲が語る空気の気持ちについて語りながら、楽しく歩きます。
日程:10月31日(木) 日帰り
講師:猪熊隆之
お申込み方法や内容など詳細は以下のURLでご確認ください。
https://docs.wixstatic.com/ugd/9b3bb6_7783e38bfeb24a3c8ce578f6a76d8706.pdf
六甲山 空見ハイキング
日程:11月24日(日) 日帰り
講師:猪熊隆之
前日の11月23日(土)に机上講座もおこないます。
お申込み方法や内容、ご参加料金など詳細は、ケイランドにお問い合わせください。お申込みやツアーの詳細については以下のURLでご確認ください。
http://kland.jp/tozankyoushitu/
2019年度ヤマテン主催「山のお天気講座」
東京会場
第5回 12月1日(日) 冬山の気象について学びます(初級、中級)
午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
大阪会場
第2回 12月8日(日)
※10月5日(土)には、大阪府岳連主催の気象講演会を猪熊が担当します。お申込み方法や内容などの詳細は下記URLでご確認ください。
http://sangaku-osaka.com/so-tai/19/anzentudoi/1005.html
名古屋会場
第2回 12月7日(土)
大阪、名古屋会場ともに初級編では気象遭難を防ぐための天気図の見方、中級編では冬山の気象について学びます。
午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
皆様の安全登山のお役に立てれば、嬉しい限りです。
それぞれヤマテンポイント1(午前、午後両方ご参加の方は2)
2019年の日本の山カルチャークラブ
東京会場(アルパインツアーサービス本社) 19時~21時
受講料:3,000円 ヤマテンポイント各1
毎月1回120分(質疑応答含)
講師:渡部 均
山の天気の基本を、実際の山における実例から学びましょう。1回のみの参加でもOKですが、今年度は全ての受講が基礎編ですので、連続受講をお勧めします。前回の復習も必ず行います。
場所:アルパインツアーサービス本社 特設説明会場
4/24(水):山岳気象のキホンと春山の気象遭難・・・終了しました
5/29(水):高気圧と低気圧、前線・・・終了しました
6/19(水):梅雨期の気象の特徴とリスク・・・終了しました
7/10(水):夏山の気象~落雷と短時間強雨から身を守るための知識~・・・終了しました
8/21(水):台風の進路予想図の見方と登山上の注意・・・終了しました
9/25(水):気象遭難を防ぐための天気図の見方(秋山編)
10/23(水):衛星画像の利用法
11/20(水):観天望気入門
12/11(水):冬山のお天気入門
お申込み、お問い合わせはアルパインツアーサービス株式会社へ。
http://alpine-tour.com/japan/
ヤマテンポイントについて
ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
机上講座は1回参加につき1ポイント、空見ハイキングなど山での実地講座については1日につき3ポイント(旅行会社企画・実施のものも含みます)を進呈させていただきます。
特定のポイントが溜りますと、素敵なプレゼントを贈呈させていただきます。
詳細につきましては、 http://yamatenki.co.jp/point.php でご確認ください。
雲を学べる絵葉書11枚入りセット(10ポイント溜まるとGET!)
猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。