雲から山の天気を学ぼう|(98)山麓は悪天、山頂は晴天

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登山口では晴れていたのに、山頂では霧に覆われていた、という経験をお持ちの方は多いと思いますが、高い山では、山麓では低い雲に覆われて弱い雨が降っていても、山頂で晴れていることがあります。
では、実際の事例からその原因について探ってみましょう。今回の内容はちょっと難しいので、中~上級編です。

写真1 山麓を覆う雲

写真1のように、山麓は雲に覆われています。ここで見られる雲は2種類あります。雲頂が平らな雲は、高度が低い所に浮かんでいる下層雲(かそううん)、青空をはさんで上側に見られる雲は、高度3~5km付近に浮かぶ中層雲(ちゅうそううん)です。
まずは、下層雲について見ていきましょう。どうして雲のてっぺんが平らになっているのでしょうか?それは雲の上端に逆転層(ぎゃくてんそう)と呼ばれる非常に安定した層があるからです。逆転層とは写真2のように、雲を挟んで下側に冷たい空気、上側に温かい空気がある状態を言い、このようなときは、雲の上に出れば、雲海が広がる晴天になります。

写真2

図1 八ヶ岳山麓の大気の状態曲線(大気の状態を示したグラフ)

逆転層では、空気に蓋をしたような状態になり、蓋の上に雲が昇っていけないので、雲は水平に広がる傾向があります。この日の天気図を見ると、八ヶ岳山麓では高気圧の周辺部にあたり、東~南東風が吹くことが想定されます。

図2 写真1,2を撮影した時間帯の天気図

図:山の天気予報 https://i.yamatenki.co.jp/ より

諏訪から小淵沢にいたる谷では、北東~北側に車山~蓼科山~八ヶ岳、南西~南側に守屋山~入笠山~甲斐駒ヶ岳があるため、東~南風が吹くときは、この谷に沿うように南東風が吹きます(図3の紺色の矢印)。この風によって下層雲は南東から北西側に流れています。

図3 八ヶ岳山麓周辺で吹く風

しかしながら、今回は、その上にも雲があります。この雲は上空3~5km付近に浮かんでいる高層雲(こうそううん、別名おぼろ雲)です。この雲は、下層雲とは違う方向に流れていきました。これは、図4をご覧いただくと分かるのですが、上空3~5kmでは南西風が吹いているからです。

図4 八ヶ岳周辺の上空3,000m付近の風(風向の見方は図5参照)

図5 風向の見方

青空が見えているのは、南西風が中央アルプスを越えて下降流が起き、雲が蒸発して弱まっているからです。
これについては動画の方が分かりやすいと思いますので、下記のURLからアクセスしてみてください。

ヤマテンYouTubeチャンネル 雲のワンポイント動画part8

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。

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