雲から山の天気を学ぼう|(94)三方を雷雲に囲まれたとき
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夏山で気を付けたい気象現象というと、「雷雨」が思い浮かぶ方も多いと思います。今回は2021年6月14日(月)から17日(木)にかけての雷雨を例に見てみましょう。
この期間は、上層に寒気が入り大気が不安定になって、各地で激しい雷雨になりました。ヤマテンがある長野県八ヶ岳山麓でも、連日のように雷雨となりましたが、17日(木)は三方を雷雲に囲まれる状況でした。
写真1 朝は、青空が眩しく、気温も低め
この日の朝は、前日までのように、朝からモクモクと雲がやる気を出している気配はありませんでした。しかし、午前10時頃から入道雲があちこちに発生してきます。
写真2 午前11時、雲が急速にやる気を出していく
写真3 入笠山方面で雷雲に成長しつつある
写真4 原村方面で雷雲発達中。写真右の方は、既に激しい雨が降り出している
写真5 車山から南に延びる尾根上で雷雲が発達中
さて、このように三方を雷雲に囲まれてしまいました。雷雲からは、激しい雨が降ります。その雨で空気がひきずり下ろされ、下降気流が生まれます。雨は落下しながら少しずつ蒸発し、蒸発する際の冷却効果で空気が冷やされていきます。こうして冷えた空気が地面にぶつかって周囲に吹き出します。雷雲が接近するときに急に冷たい風が吹き出すのは、この風の影響です。この冷気が周囲の暖かい空気とぶつかると、上昇気流が起きて新たな雲が発生します。図1は、このときの雷雲の位置と、そこから吹き出す冷たい空気、谷風によって運ばれる暖かい空気の動きを示したものです。冷たい空気と暖かい空気がぶつかる所で新たな雲が発生することが分かります。
図1 ヤマテン事務所から見えた3つの雷雲と風の様子
ヤマテン事務所では丁度、2つの雷雲から吹き出す冷たい風と、茅野駅方面から吹く暖かい谷風が衝突し、上昇気流が発生して新たな雲ができました(写真6)。
写真6 ヤマテン事務所上空でできた雲
この日は上層に強い寒気が入ったため、この雲もやる気を出して成長し、ヤマテン事務所でも激しい雨が降り出しました。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。