雲から山の天気を学ぼう|(92)雨氷が発生する仕組み

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今回は、雲ではなくて、雨氷についてです。
2024年2月22日、長野県中部では8年ぶりに大規模な雨氷(うひょう)が発生しました。

雨氷が発生するときは、停滞前線が日本付近に停滞するときが多いです。前線は暖かい空気と冷たい空気がぶつかる所にできますが、地上付近だけでなく、上空に向かって延びています。前線の北側では地面付近に冷たい空気が入る一方で、上空には暖かい空気が南から流れ込みます(図1)。

図1 雨氷が発生する様子(図の右側が北、左側が南)

前線の上空には暖かい空気があるので、落下してきた雪は暖かい空気を通る中で雨に変わり、それが地面に落ちていきます。一旦、雨に変わると、氷点下の空気を通ってもよほど低温になったり、長い間落下しない限り、再び雪に変わることはありません。

しかしながら、氷点下の中でかろうじて水滴でいる雨のため、木や草、地面などに付着するとたちまち凍り付いてしまうのです。それが雨氷です。

長野県中部では2016年に大規模な雨氷が発生しました(写真2,写真3)。

写真2(上) まるで雨氷の額縁(背景は蓼科山)/写真3(下) 雨氷に彩られた山

地上から上空にかけての気温が実際どうなっていたか、今回の館野(茨城県)のエマグラムを見てみると(信州の近くには高層気象観測地点がないので)、上空2,500~3,000m付近に0℃以上の暖かい空気の層があり、そこを通ったときに雪が解けていることが分かります。また、その下の上空800~1,500m付近では、それより気温が低い空気の層があることが分かります。ヤマテンのある長野県茅野市は高原になっているので、標高800m~1,200m付近に氷点下の冷気があり、標高1,500m付近の八ヶ岳山荘では朝の気温が3℃ぐらいと山麓より暖かく、黒百合ヒュッテや高見石など標高2,000m以上でも雨になりました。雨氷が出現する条件が揃っていたことが分かります。

次はいつ発生するのでしょうか?また、出会えることを期待しています。ただし、倒木や停電などの災害になることもあるので、ぬか喜びはできませんが・・・。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。

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