雲から山の天気を学ぼう|(90)寒冷前線の接近を天気図から見てみよう
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低気圧が接近してくるときに、天候が崩れていくときの天気変化は主に2つのパターンがあります。ひとつは温暖前線が接近してくるとき、あるいは低気圧が南海上を通過するときの崩れ方。この場合、天気は徐々に崩れていきますので、雲の変化を見ていくと、あとどの位で天気が崩れていくのかが予想できます。また、天気の崩れ方も緩やかなので、気象遭難が起こりやすい天気にはなりません。このときの雲の変化は、何度か過去に掲載していますので下記をご参照ください。
もうひとつは、寒冷前線が接近するときです。こちらは天候が急激に悪化し、前線通過時には落雷や強雨、強雪など激しい気象現象をもたらします。また、前線通過後は、日本海側の山岳で大荒れの天気になることもあり、気象遭難が起こりやすい天候変化になります。以前、西穂高・丸山でおこなった空見ハイキングでは、午前中は良いお天気だったものの、昼頃から天候が急変し、午後は猛吹雪になりました。このようなときに、気象遭難が多発します。天候の急変を予想する方法は、
- 登山前に天気図を確認する
- 登山中に天候悪化の兆候を雲や風の変化から察知する
以上の2点になります。今回は、1の登山前に天気図を確認することで、天候の急変を予想していく方法を見ていきます。予想天気図は、気象庁や民間の気象会社のHP、ヤマテンの山の天気予報サイトなどで見ることができます。それぞれメリット、デメリットがありますので、使いやすいものを選ぶと良いでしょう。まずは、気象庁などのHPなどで見られる天気図から確認しましょう。
こちらの最大のメリットは見やすいことです。数値予報と言われるコンピュータで計算した結果の気圧配置を、気象庁の担当の方が高気圧や低気圧、前線などを書き加えて見やすく作り直したものです。最大のデメリットは24時間ごとの予想図しか見られないことと、最長でも2日後の予想図しか見られないことです。さらには、気象庁で書かれる前線は、構造がしっかりした前線のみ(つまり、強い前線のみ)です。構造があまりはっきりしていない、あまり強くない前線は天気図に書かれませんが、山では弱い前線でも天気が崩れることが多くなります。
これらの特徴を踏まえたうえで、気象庁の天気図を見ていきます。寒冷前線が接近するとき、天気図上に前線が書かれる場合と書かれない場合があります。書かれている場合は、その前線が通過する時間帯を予想することが大切です。
図1 3月4日(金)の夕方に確認した5日9時の予想天気図(気象庁提供)
図1をご覧いただくと、日本海北部に低気圧があり、そこから延びる寒冷前線が北陸沖から山陰地方へと延びています。図2では、この寒冷前線が関東地方の沖合まで進んでいます。図1は午前9時の予想、図2は21時の予想ですから、寒冷前線が西穂高岳付近に達するのは、図1のすぐ後であることが想定できます。しかしながら、この天気図では、具体的にいつ通過するのかが分かりません。
図2 3月4日(金)の午前中に確認した5日21時の予想天気図(気象庁提供)
そこで3時間ごとの予想図が見られるヤマテンの専門・高層天気図で確認していきます。ここでは2つの天気図から確認していきましょう。
図3 3月4日9時を基準とした5日12時の地上気圧+降水予想図
地上気圧+降水予想図で寒冷前線の位置を特定する方法は、長細い降水域を見つけることです(図3,図4の赤い破線枠内)。これを見ると12時には北海道の渡島半島付近から佐渡島~北陸沿岸にかけて降水域があり、この辺りに寒冷前線が予想されています。
図4 3月4日9時を基準とした5日15時の地上気圧+降水予想図
3時間後の15時の予想図(図4)では、この降水域が東に移動し、東北の日本海側から北アルプス付近にかかっているのが分かります。これは前3時間(つまり、12~15時)の降水予想図ですから、寒冷前線は12時~15時に通過することが考えられます。しかしながら、線状の降水域は寒冷前線でないときにも出現するので、中・上級者の方は、1,500m上空の相当温位+風予想図を見る方が確実です。
図5 850hPa面(上空1,500m付近)の相当温位+風予想図(5日12時)
相当温位予想図についての説明は下記URLをご参照ください。
ここでは、寒冷前線の位置を特定する方法をお伝えします。
- 線が集中している所の端(相当温位が高い方の端)
- 風向が変化している所を結んだ線(南西と西、あるいは南西と北西など)
これらの特徴が見られる場所が図5、6の赤い破線で囲んだ所です。ちょっと上級者向けの内容だったかもしれませんが、この方法だと気象庁の天気図に書かれていない前線も探すことができます。ぜひ、チャレンジしてみてください。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
山の天気予報のご案内
ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報を配信しているほか、主要な18山域では、具体的な気象リスクについての警戒事項、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、通信環境が制限される登山中にストレスなく使用できる登山モードを設定するなど、登山者視点の気象情報を提供しています。ヤマレコアプリでも山の天気予報の一部機能を確認できるようになりました。詳しくは、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000012267.html にてご確認ください。
さらにGWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には、スペシャル予報対象の山で5日間予報または週間予報を発表します。次回は、5月の大型連休の週間予報を発表する予定です。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://lp.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。
山の天気を実地(山)で学ぶツアーのご案内
観天望気講座を書いている猪熊隆之や、ヤマテンの気象予報士が講師を務める「空見(雲見)ハイキング」を旅行会社などで実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。
アルパインツアーサービス旅行雲見ハイキング
豪雪の越後で天気を学ぶ 魚沼大力山と魚沼丘陵スカイライン・スノーハイク 2日間
日程:2024年2月24日(土)~25日(日)
企画・実施:株式会社アルパインツアーサービス
集合場所:JR浦佐駅改札前 / 09:30 解散場所:JR越後湯沢駅/ 17:30頃(予定)
ツアーの詳細や申し込み方法は下記URLにてご確認ください。
http://www.alpine-tour.com/tourinfo/details.php?keyno=4087
皆様と一緒に山を歩き、空見(そらみ)ができることを楽しみにしています。
ヤマテン動画講座(無料)配信中
新型コロナウィルス感染症予防のため、ヤマテンの「山の天気予報」サイトで見られる天気図の見方を動画配信しています。下記URLにてご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=VJ-MWg70LFI&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70
「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中
過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
http://sora100.net/
ヤマテンオリジナル「観天望気」Tシャツにピンク、グレーが加わりました!
やまどうぐレンタル屋さんが運営するヤマトリップショップで、ヤマテンオリジナルグッズを販売しております。これまでは講習会や空見登山ツアーのみでの販売でしたが、オンラインでもご購入いただけることになりました!また、茅野市内の一部カフェや、やまどうぐレンタル屋新宿店でも販売します。このたび、観天望気Tシャツにピンクとグレーが加わり、カラーバリエーションが増えました!
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新刊のご紹介
猪熊隆之の新著「天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた」が7月20日、ベレ出版より発売!
天気を予測できることわざ、知っていますか? 例えば「アマガエルが鳴くと雨」「ツバメが低く飛ぶと雨」「朝焼けは雨」「夕焼けは晴れ」「暑さ寒さも彼岸まで」「雷三日」などなど……。日本には、昔から言い伝えられてきた、天気に関することわざがたくさんあります。
「これらのことわざの根拠とは?」「本当に天気を予測することができるの?」といった疑問に、山岳気象予報士のパイオニアである著者が答えます!
よく耳にすることわざから、地域特有のもの、山や海で役立つもの、著者の経験から編み出したことわざまで、さまざまなことわざ・言い伝えを解説します! 気象に興味のある方、天気を自分で予測したい人、アウトドアが好きな方など必読の一冊です。
猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。