雲から山の天気を学ぼう|(89)寒冷前線の接近、通過に伴う雲の変化
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今回取り上げるのは寒冷前線と呼ばれる前線が接近して通過していく際の雲の変化について見ていきます。
まず寒冷前線とは、暖かい空気と冷たい空気の境目で、前線の周辺では狭い範囲ですが天気の急変をもたらすような積乱雲(せきらんうん)と呼ばれるタイプの雲が発生しやすい場所です。この寒冷前線が近づいてくると、晴れていた空が急に暗くなり、ザっと雨や雪が降ってくることがあります。
この日の天気図を見てみましょう(図1)。北海道付近に低気圧があり、低気圧から南~南西方向に伸びている青いラインが寒冷前線と呼ばれる前線です。
図1 11月28日6時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)
寒冷前線が接近してくる前は、まだ青空が多いですが(写真1)、寒冷前線の接近に伴い、北西の空には雲が広がり始めています(写真2)。
写真3 尾流雲が見られるようになる(白い囲みの部分)
寒冷前線が接近してくるにつれて、西や北から雲行きがさらに怪しくなってきました。白い囲みの部分では、レース状のモヤモヤした雲が見られていますが、これは尾流雲と呼ばれ、雲から落ちてくる雨や雪が地上に達する前にできたもので、地上に達する前に蒸発している様子が見えています。この尾流雲が見られると、そのあとに雨や雪が降ってくることが多く、尾流雲が地上に達すると降水雲と呼ばれます。
図2 11月28日9時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)
写真4 尾流雲から降水雲になり雨が降り出す
図2の天気を見ると、まさにヤマテンの事務所周辺を寒冷前線が通過していくタイミングとなります。写真4は前線通過時の様子で、空は一面雲に覆われて、先ほどの尾流雲が地上に達し降水雲となり、このタイミングで事務所周辺でも雨が降りました。
図3 11月28日12時の天気図(赤矢印の先が写真の地点)(気象庁提供、ヤマテン加筆)
写真5 雨上がりの東の空には虹が
寒冷前線による雨や雪は降っても短い時間のため、天気の回復も比較的早いのが特徴です。12時には前線は東へ離れ(図3)、西の空からは日が差し込んできました。このタイミングで東の空にはキレイな虹が見られました(写真5)。寒冷前線通過後は、東の空に注目すると、キレイな光景が見られるかもしれませんね。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。