雲から山の天気を学ぼう|(88)冬型の天気 ~八ヶ岳~
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冬の天気といえば「日本海側では雪や雨、太平洋側は晴れ」というイメージを持つ方も多いのではないかと思います。この天気は、冬によく現れる冬型の気圧配置によってもたらされます。冬型の気圧配置とは、モンゴルやシベリア方面に高気圧、千島列島やオホーツク海、三陸沖に低気圧という“西高東低型”の気圧配置で、天気図上では等圧線が縦縞模様になっている形です。
日本海側や太平洋側はイメージしやすいですが、真ん中にある八ヶ岳はどのような天気になるでしょうか?多くの登山者にとって八ヶ岳の天気はイメージが掴みにくいと思いますので、今回は冬型の気圧配置になったときの八ヶ岳の天気について見ていきます。
冬型の気圧配置と一言にいっても、冬型が強いとき、弱いとき、風向き、上空の寒気の強さによって、山の天候は大きく変わります。強い冬型と弱い冬型の違いは、地上天気図に書かれている等圧線が何本走っているかで見分けることができます。
並の冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が3~4本
写真1 並の冬型のときの雲
標準的な冬型のときには、山麓では晴れますが、山の上には雲がかかっています。雲のてっぺんは、水平になっており、この上に安定した空気の層があることを示しています。安定した層があると、雲はこれ以上、上昇できず横に広がっていくからです。この雲がかかっているとき、稜線では霧に覆われますが、降雪はあっても弱く、本降りになることは少ないです。稜線では風が強く、気温も低いので、防寒、防風対策は万全にしていく必要があります。また、上空の寒気が強まっていくと、写真2のように雲がやる気を出していき(上方に成長していき)、吹雪になります。
強い冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が5本以上
冬型が強くなると、山麓でも雲が多くなり、雲底(雲の底)の高度と雲頂(雲の上端)の高度の差(写真3、4の白い矢印の幅)が大きくなります。つまり、雲が厚くなるということです。そうなると、太陽の光が通らなくなり、雲の底は暗い色に変わってきます。雲が厚みを増すと山全体を覆い、雲の下に降雪が見られるようになります(緑色のカコミのもやっとした部分)。このような雲の特徴が見られるとき、山の上は吹雪となっています。見通しが悪く、低体温症のリスクもありますので、森林限界より上部の行動は控えた方が良いでしょう。
写真4 上層に強い寒気が入っているときの雲
上層に寒気が入ってくると、大気が不安定になり、雲がやる気を出して上の写真のように、もくもくと上方へ発達していきます。夏の入道雲と同じですね。このような雲に山が覆われているときは、雪が強まり、突風や落雷の恐れもあります。冬型が強まっているときに、このような雲が見られるときは、山の上では暴風雪の大荒れの天気になります。もっとも注意が必要な雲です。
弱い冬型・・・本州から九州、または北海道から本州にかけて等圧線が3本またはそれ以下
写真5 冬型が弱いときの雲
一方、冬型が弱まっていくと、標高の低い茶臼山から高見石付近から雲が取れてきて、上の写真のように、雲は天狗岳~権現岳上空に広がるのみになってきます。やがて天狗岳や権現岳も雲が取れて阿弥陀岳が見えてくると、最後まで残っていた横岳~赤岳の雲が取れるのももう一息です。冬型が弱まってくれば、天気が回復していき、稜線の風も弱まっていきます。午前中に写真5のようになれば午後は全域で好天が期待できますし、午後に写真5のようになっていれば翌朝は好天が期待できます。
このように雲を見ることで、山の上の天候の荒れ具合を想定することや、冬型の強さを推測することができます。空からのサインを読み取って、安全な登山を心がけてください。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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天気を予測できることわざ、知っていますか? 例えば「アマガエルが鳴くと雨」「ツバメが低く飛ぶと雨」「朝焼けは雨」「夕焼けは晴れ」「暑さ寒さも彼岸まで」「雷三日」などなど……。日本には、昔から言い伝えられてきた、天気に関することわざがたくさんあります。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。