雲から山の天気を学ぼう|(87)金剛山で見られた雲

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ヤマテンでは不定期で「山頂で観天望気」という企画を実施しています。その第1回目を金剛山(奈良・大阪)で開催しました。そのときに見られた雲を解説します。朝起きて窓の外を見ると、大阪市上空はうね雲(別名層積雲)が広がっていました(写真1)。うね雲は、水蒸気を多く含んだ空気があるときに(主に海から風が吹いてくるとき)、地上付近や海上が温かく、上空1.5~2km位の低い場所に冷たい空気が入るときにできる雲です。

写真1 大阪市上空に広がるうね雲

この日の天気図を見てましょう。

図1 11月8日午前6時の地上天気図

中国東北地方に低気圧があり、日本の東海上に高気圧があります。風は気圧が高い高気圧側から低気圧側に吹くため、矢印のような風向きになります。つまり紀伊半島付近では東寄りの風が吹くことが予想されます。等圧線の間隔はやや狭く、開けた場所や尾根上では東風が強まることが想定されました。また、山では海側から風が吹くと、水蒸気を含んだ空気が上昇して雲がでるため、天気が崩れることをこれまでも学んできました。この日は熊野灘や伊勢湾方面から湿った空気がぶつかる鈴鹿山脈や高見山地、台高山脈で天気が悪くなる風向です。今回行く金剛山のルートは山の西側から登るため、山頂に出るまでは、風下側に入るため風や雨の影響をあまり受けないものの、尾根上を歩くときには樹林がない開けた場所で風が強まることを想定しました。

図2 近畿地方の地形
写真1 紅葉に染まる山

11月上旬ということもあり、登山口では紅葉はまだでしたが、山頂近くになると、色鮮やかなカエデの紅葉が目を楽しませてくれました。

写真2 山頂で雲の話をする猪熊

写真3 山頂付近の展望台から関空方面の空

写真3は、金剛山山頂付近の展望台から見た関空方面(南西)の空です。関空方面は青空が広がって陽が当たっているのが分かります。紀伊山地で雨を降らせた雲が山を越えて下降気流となり、雲は蒸発して消えていくからです。

写真4 山頂付近から東側の空を見る

一方、東側の空を見ると、暗い感じの雲が幾重にも広がっています。熊野灘からの湿った空気が上昇して雲が成長している様子が分かります。

図3 風上側と風下側の天気の違い

図3のように、東風によって海側から湿った空気が入り、それが紀伊山地で上昇して雨を降らせ、山を越えると下降気流によって雲は消えていき、泉南地域では晴れている、という山を挟んだ両側の天気の違いが良く分かります。

さて、この日は東風が吹く気圧配置でした。日本付近では西から天気が崩れることが多いので、観天望気の基本は、西側の空を見ることなのですが、今回は東風が吹いているので風上側の東側から雲は流れてきます。東側から天気が変化していくので、このようなときは東の空を見ます。高い山の反対側(東側)にある雲は山を越えると弱まりますが、山の手前側(西側)にある雲は、金剛山にやってきます。

山頂でお昼を食べている間に、湿った空気が強まって山の低い場所を越えて雲が侵入してくるようになりました(写真5)。

写真5 南側の山に雨が降っていることを示す降水雲(こうすいうん)が見られる

そして、いよいよ東隣の山で雨が降り出してきたようです(写真6)。カーテンのレースのように雲の下が霞んでいるところは雨が降っている場所です。こうなってきたら雨具を取り出して出発しましょう。

写真6 雨が近づいてきた様子

風向を天気図から確認し、どちらの空をチェックしたらよいか調べておくと、空を見るときに役立ちます。また、風を感じられる尾根上にでたら、風向をチェックして風上側の空を見ましょう。今回のように、東風が吹くことが予想されるときは、金剛山など高い山の風下側の山を選ぶと天気の崩れが小さくなります。このときも、下山を開始してしばらくすると、雨はやんで再び青空が出てきました。湿った空気の入り込みが一時的だったようですね。

このときは、低気圧の本体がまだ西側に離れていたので回復しましたが、低気圧が接近してくるときは、雨は止むことなく次第に強まっていくので注意が必要です。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報を配信しているほか、主要な18山域では、具体的な気象リスクについての警戒事項、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、通信環境が制限される登山中にストレスなく使用できる登山モードを設定するなど、登山者視点の気象情報を提供しています。ヤマレコアプリでも山の天気予報の一部機能を確認できるようになりました。詳しくは、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000012267.html にてご確認ください。

さらにGWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には、スペシャル予報対象の山で5日間予報または週間予報を発表します。次回は、12月下旬に年末年始の週間予報を発表する予定です。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://lp.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。

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観天望気講座を書いている猪熊隆之や、ヤマテンの気象予報士が講師を務める「空見(雲見)ハイキング」を旅行会社などで実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。

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冬の霧ガ峰 ヒュッテみさやま泊  雲見トレッキング 2日間
日程:2024年1月20日(土)~21日(日)
企画・実施:毎日企画サービス(毎日新聞旅行)
集合場所:茅野駅
ツアーの詳細や申し込み方法は下記URLにてご確認ください。
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新型コロナウィルス感染症予防のため、ヤマテンの「山の天気予報」サイトで見られる天気図の見方を動画配信しています。下記URLにてご視聴いただけます。
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「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中

過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
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新刊のご紹介

猪熊隆之の新著「天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた」が7月20日、ベレ出版より発売!

天気を予測できることわざ、知っていますか? 例えば「アマガエルが鳴くと雨」「ツバメが低く飛ぶと雨」「朝焼けは雨」「夕焼けは晴れ」「暑さ寒さも彼岸まで」「雷三日」などなど……。日本には、昔から言い伝えられてきた、天気に関することわざがたくさんあります。

「これらのことわざの根拠とは?」「本当に天気を予測することができるの?」といった疑問に、山岳気象予報士のパイオニアである著者が答えます!

よく耳にすることわざから、地域特有のもの、山や海で役立つもの、著者の経験から編み出したことわざまで、さまざまなことわざ・言い伝えを解説します! 気象に興味のある方、天気を自分で予測したい人、アウトドアが好きな方など必読の一冊です。

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。

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