雲から山の天気を学ぼう|(80)3月13日の磐梯山での遭難につきまして
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2023年3月13日(月)に磐梯山で母娘が遭難し、母親が死亡、娘さんが低体温症で救助されるという痛ましい事故がありました。「気象遭難ゼロ」を目指しているヤマテンの代表として、非常に残念な気持ちでいっぱいです。今回は、弊社が一般登山者向けに発表している「山の天気予報」をどのように活用すれば、こうした事故を防ぐことができるのかについてお話ししていきたいと思います。
まず、登山前日の12日(日)13時に発表された、磐梯山の山頂天気予報を確認します(画像1)。朝のうちは晴れマークが出ていますが、お昼には雪マークになっています。
天気分布予想図(画像2 数値予報による予想なので平地、山麓の天気)を見ても磐梯山付近で朝は曇り空だったのが9時頃から雨になって12時頃は、北側でみぞれや雪マークが出てきています。
また、平均風速(10分間の風の強さの平均値)も6時19m/s→12時8m/s→18時18m/sと昼前後を除き、低体温症が起こりやすい15m/sを大きく超えています。
ここで風向きに注目します。6時に南風、12時南西風、18時西北西風になっています。磐梯山は南側に那須連山などの高い山があるため、南風は吹きにくい地形です。したがって、6時の19m/sはもっと弱い可能性があります。一方、西~西北西風は2つの山脈の間を抜けてきた風がまともにぶつかるので(画像3)、この予想値より風が強まる恐れがあります。
気温も12時マイナス1℃から18時マイナス6℃と急激に下がり、午後は低体温症に陥りやすい気象条件である
1.風速15m/s以上
2.雨や雪が降っていること
3.気温が低いこと(特に急激に下がるとき)
にすべて当てはまる条件になりました。朝、曇り空程度で登山口では風が弱く、特に問題ない天気だったとしても(あるいは晴れていたとしても)、日中、急速に天候が悪化するときに低体温症などの気象遭難が多発します。この日の予報を見ていれば、天候が急激に悪化し、気温が下がる昼までには森林限界内に下山することが重要だったことが分かります。
新聞などの報道によると、母親が動けなくなったと娘さんから連絡があったのが15時20分。標高1,500m付近とのことで、時間的にも低体温症に陥った状況からみても下りだと思いますが、そうだとすると、山頂を出発したのは昼過ぎということになりますね。天候の悪化を考慮して出発時間を早めるか、途中で引き返す選択をすれば、このような事故が防げたのではと思うと、残念でなりません。
天気が悪化し、吹雪になると視界が非常に悪くなっていきます。猛吹雪を体験すると分かりますが、前の人すら見えなくなりますし、トレース(足跡)もあっという間に消えてなくなります。どこを進んでいるのか分からなくなり、道迷いが非常に起こりやすくなります。迷っているうちに体温が奪われて低体温症に陥るケースが非常に多いです。
ヤマテンの山の天気予報が見られるようになったヤマレコアプリを使えば、ルートから外れたときに音声や振動などが出ますが、猛吹雪の際は風の音で聞こえづらくなり、雪が画面に張り付いて画面も見づらくなることも考えられます。気温が下がると電圧が下がって急にシャットダウンしてしまうこともありますから、冬山では紙の地図も併せて持つと良いでしょう。いずれにしても、天候が悪化する中ではスマホの充電問題だけでなく、道迷い、低体温症、雪庇の踏み抜きや雪崩など様々なリスクが増えていきます。
このような事故を避けるためにも、ぜひ、ヤマテンの「山の天気予報」を有効に活用してリスクを減らしていきましょう。なお、山頂の天気予報は、非常に使いやすくなったヤマレコアプリでの山の天気予報のご利用をおすすめします(下記参照)。
文責:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章
山の天気予報のご案内
ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報を配信しているほか、主要な18山域では、具体的な気象リスクについての警戒事項、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、通信環境が制限される登山中にストレスなく使用できる登山モードを設定するなど、登山者視点の気象情報を提供しています。2022年10月からはヤマレコアプリでも山の天気予報の一部機能を確認できるようになりました。詳しくは、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000012267.html にてご確認ください。
さらにGWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には、スペシャル予報対象の山で5日間予報または週間予報を発表します。4月下旬にゴールデンウィーク期間の週間予報を発表する予定です。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://lp.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。
山の天気を実地(山)で学ぶツアーのご案内
観天望気講座を書いている猪熊隆之や、ヤマテンの気象予報士が講師を務める「空見(雲見)ハイキング」を旅行会社などで実施しています。山は雲を観察したり、学んだりする最高のフィールドです。それは、平地から雲を見ると、どうしても下から見上げてしまうので、平面的にしか見えないのに対し、山では、立体的に雲を捉えられるほか、稜線や尾根上では斜面を昇ってくる上昇気流によってできる雲を体感でき、山を挟んだ両側における雲の出き方の違いも観察できます。また、観天望気だけではなく、登山前日の天気図から押さえておくべきポイントや、荒れた天気の日は、気象リスクを減らすために登山者がおこなうべきことを解説し、安全登山の方法について学びます。
空気は目に見えませんが、雲は空気の状態を語ってくれています。雲の聞えない声に耳を傾けながら、楽しく山を登りましょう。皆様とご一緒できることを楽しみにしています。
毎日新聞旅行雲見ハイキング
霧訪山と守屋山 雲見トレッキング
残席わずか
日程:2023年4月22日(土)~23日(日)
企画・実施:株式会社毎日企画サービス(毎日新聞旅行)
集合場所:JR茅野駅
ツアーの詳細や申し込み方法は下記URLにてご確認ください。
https://www.maitabi.jp/parts/detail.php?t_type=&course_no=22038
皆様と一緒に山を歩き、空見(そらみ)ができることを楽しみにしています。
ヤマテン動画講座(無料)配信中
新型コロナウィルス感染症予防のため、ヤマテンの「山の天気予報」サイトで見られる天気図の見方を動画配信しています。下記URLにてご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=VJ-MWg70LFI&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70
「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中
過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
http://sora100.net/
ヤマテンオリジナル「観天望気」Tシャツにピンク、グレーが加わりました!
やまどうぐレンタル屋さんが運営するヤマトリップショップで、ヤマテンオリジナルグッズを販売しております。これまでは講習会や空見登山ツアーのみでの販売でしたが、オンラインでもご購入いただけることになりました!また、茅野市内の一部カフェや、やまどうぐレンタル屋新宿店でも販売します。このたび、観天望気Tシャツにピンクとグレーが加わり、カラーバリエーションが増えました!
ヤマトリップショップはこちら
https://yamatrip.com/shop/item/list/yamaten?fbclid=IwAR0nbpBkzRh7HMpgJp2ANv1umBDika4ZLufgEjORlMBkNaX2_nbfIYifaQY
猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。