雲から山の天気を学ぼう|(74)北アルプスに吹雪をもたらす雲

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体育の日の連休は、しばしば北ルプスや妙高山、東北の標高の高い山などで吹雪になります。それを予想していないと、低体温症や積雪によるスリップ、転滑落などの事故を起こしかねません。そこで、数年前の体育の日に、富士山や立山で初冠雪を記録し、北アルプスや木曽駒ヶ岳、南アルプス主脈の稜線などで積雪を観測した日に見られた雲について紹介します。このときは幸い、低体温症などによる大きな事故はなかったようですが、1989年や2006年には大量遭難事故が発生しています。

それでは、八ヶ岳と白馬岳を例にとり、稜線で荒天となる場合の雲について見ていきましょう。

写真1 稜線で荒れた天気となる危ない雲(八ヶ岳)

上の写真(写真1)で、山麓では青空が広がっています。一般に山麓で晴れていて、山の上で荒れた天気になっているとき、低体温症などの気象遭難が発生しやすくなります。それは、山麓や平地の天気予報では晴れ予報となっていて、山の上の荒天を予想できる登山者が少ないためです。山の上で荒れた天気になっているかどうかは、登山口に向かう道中で目的の山にかかる雲を見ることで推測できます。

写真1のように、山の上にベッタリと張り付いている雲が現れたら、山麓は晴れていても山の上は風が強く、ガスに覆われている証拠です。
また、この雲の高さが高くなっていったり(写真2)、雲が山の下の方に押し寄せてくるときは、上部で吹雪になります。

写真2 写真1の1時間後の写真

続いて、白馬岳で荒れた天気になっていくときの雲を見ていきましょう。

写真3 白馬三山にかかる雲

写真4 写真3の数時間後の雲

※写真3と4は白馬村振興公社提供(http://hakubakousha.com/index.php/live-camera-happo-ike)

写真3と写真4を見ると、時間が経つにつれて、白馬連峰にかかっている雲が厚みを増して高度を下げてきています。このようなとき、稜線では天候が急速に悪化し、風雨や風雪が強まります。
それでは、平地と山の上とで、どのようなときに天候が違ってくるのでしょうか?一言で言えば、風が強いときです。特に、海側から風が吹くときに山の天気は崩れます。雲は水蒸気を含んだ空気が上昇するときに発生します。空気が上昇すると、水蒸気が冷やされて水滴や氷の粒に変わり、それが沢山集まったものが雲です。海の上には、雲の元になる水蒸気が沢山あり、その空気が風に流されて山に入り、山の斜面に沿って上昇することで雲が生まれます(図1)

図1 海から風が吹くと山では天気が崩れる

さて、北アルプスや東北地方の高い山で吹雪になるときの天気図を見ていきます。

図2 体育の日の連休期間中、北アルプスで吹雪となった日の天気図(気象庁提供)

オホーツク海に発達した低気圧が2つあり、中国大陸には高気圧があります。いわゆる西高東低の冬型の気圧配置です。北日本や東日本では等圧線の間隔が開き、午前中は日本海側の山岳でも広い範囲で青空が広がりました。しかし、等圧線が南にふくらんだ部分があります(破線のところ)。ここは、気圧が低い方から高い方に向かって線が張り出していて、このようなところは、周りより気圧が低い、気圧の谷になります。気圧の谷では天気が崩れます。また、気圧の谷の西側で等圧線の間隔が狭くなっています。これは気圧の谷が通過した後、風が急速に強まっていくことを示しています。風は、気圧が高い方を右手に見て等圧線にほぼ平行に吹きますので、北アルプスや八ヶ岳付近では北西から西寄りの風が吹くことが分かります。つまり、日本海からの風になります。このようなとき、海側からの風が吹く日本海の山で天候が崩れます。

一般に、日本海側の山岳では低気圧が通過した後、等圧線が込みあう所に入ると、大荒れの天気になり、体育の日の連休など吹雪になることがあります。

図3 上空5,500m付近の気温と風予想図(山の天気予報より)

さて、上図は高度約5700m付近(500hPa面)の気温です。この時期は、-15℃以下の寒気が接近してくると、大気が不安定になり、日本海で雲が発達しやすくなります。日本海にはこれより強い-18℃線が南下していて、上空の寒気が強まっていることが分かります。このようにこれからの季節、上層に強い寒気が迫ってくると、高い山では吹雪になることが多いので、事前に予想天気図から気圧の谷の存在や上層の寒気について確認していくといいでしょう。

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

文責:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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