雲から山の天気を学ぼう|(115)風と風がぶつかり合うところでできる雲

  1. ホーム
  2. > 自救力
  3. > 猪熊隆之の雲から山の天気を学ぼう

今回は、箱根の明神ヶ岳(1,169m)で見られた雲についてみてみます。2025年の3月17日は、前日の雨から一転、朝から青空が広がっていました。

図1 地上天気図(2025年3月17日午前9時)

上の図(図1)は、この日の午前9時の地上天気図です。東日本から西日本にかけては等圧線が縦に走り、日本の西に高気圧、東に低気圧がある冬型の気圧配置になっていることが分かります。このような等圧線の向きのときは、北西風が吹き、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れになることが多く、太平洋側の箱根では青空が広がったのです。

写真1 北側の空で雲がやる気を出し始める

この雲は、日本海から南下してきた前線付近で上昇気流が発生してできた雲で、通常であれば、中部山岳を越えてくる間に弱まるものですが、今回は雲が上方へと成長し、やる気のある雲、いわゆる積乱雲(せきらんうん、別名かみなり雲)が発生しました(写真2)。この日は北から前線が南下する場なので、北側の空を見ると、今後の天気が予想できます。つまり、この雲が接近してくることが予想され、実際に、この後は天気が一時的に崩れ、アラレが降りだしました。

写真2 上空で雲がやる気を出してきて、アラレが降る

図2 500hPa面(上空約5,500m付近)の気温予想図(この日の12時)

雲がやる気を出すのは、上空に強い寒気が入るなど、地上付近と上空高い所との温度差が大きくなるときです。この日の上空5,500m付近の気温予想図(図2)を見ると、マイナス30℃以下の強い寒気が関東地方に北西側から入ってきて、雲がやる気を出しやすい条件だったことが分かります。

写真3 相模平野上空でやる気を出す雲

さらに登っていくと、東側に広がる相模平野の上空で雲が帯状に発生し、一部はやる気を出してきました(写真3)。一時、稲光も見え、写真の真ん中付近の雲の下はもやっとした暗い影のようなものがあります。これは雨が落ちていることを示していて降水雲(こうすいうん)と呼びます。他の場所では雲がないのに、この部分だけ雲ができているのは理由があります。

この日は、冬型の気圧配置となっており、朝は等圧線の間隔が関東南部でも狭く、等圧線は北西から南東方向に走っています(図3の赤い囲み部分)。

図3 この日の午前6時の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)

昼頃になると、関東南部で等圧線の間隔が広がり、等圧線が西側に張り出してくるようになっています(図4)。

図4 この日の正午の地上気圧+降水予想図(ヤマテン「山の天気予報」より)

このように西側に等圧線が張り出した部分では周りより気圧が低くなっており、周囲から風が集まってくる場所です。特に、この日のように冬型の気圧配置になると、三国峠や碓氷峠を吹き下ろしてきた北西風(赤城おろし)が相模川に沿って北から南へと吹く一方で、中部山岳と関東山地を迂回して駿河湾から吹く西風が相模湾から入り、北風と衝突します。風は衝突すると上昇する性質がありますので、ここで上昇気流が生まれ、雲ができます。そしてこの日のように、上空に寒気が入って雲がやる気を出すと、積乱雲にまで成長していくのです。

図5 風と風のぶりかり合い(googleマップに加筆)

やる気がある雲の手前側にある小田原から酒匂川流域、大磯丘陵周辺は晴れています。ここは北側に丹沢山地があるので、北風が入ることができず、風の衝突が起きないからです。
この日の天気図のような特徴が見られるとき、関東南部では時ならぬ、にわか雨やにわか雪に見舞われることがあります。平地では晴れていても箱根など山間部では積雪になることもあるので、覚えておきましょう。

標高の低い明神ヶ岳ですが、東側や南側が広く開けており、雲が発生している場所と地形との関係を観察するのに適した場所です。また、駿河湾や富士山方面など西~南西側の空を見ることもでき、これらの方角から風が吹くときは、この日とは違った興味深い雲が見られるかもしれません。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報のご案内
ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報と具体的な気象リスクについての警戒事項を配信しているほか、主要な60山では、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、雨雲・雷の動きが見られるレーダー、落雷・強雨アラートのメール機能、複数の山について受信可能な予報メールなど登山者視点の気象情報を提供しています。ヤマレコアプリでも山の天気予報の一部機能が使えます!


さらに、GWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には、スペシャル予報対象の山で5日間予報または週間予報を発表します。次回は、GWに発表する予定です。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://lp.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。

「山の天気予報」ウィンターシーズン予報導入へ
このたび「山の天気予報」では、これまで通年で運用しておりましたスペシャル予報(60山)およびノーマル予報(270山)について、2025年度に実施した「ヤマテンアンケート2025」で寄せられた多くのご意見をもとに、冬季の登山者数や気象リスクなどを総合的に考慮した結果【冬季(12月1日~3月31日)限定で一部の山を入れ替える】ことといたしました。
詳しくは https://help.yamatenki.co.jp/hc/ja/articles/51808373913881 でご確認ください。

「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中です。過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
http://sora100.net/

XやInstagramでも情報発信中!ぜひフォローをお願いいたします。
X:https://x.com/Yamaten2899
Instagram:https://www.instagram.com/yamaten2899/

ヤマテンオリジナル「観天望気」Tシャツ、ブルー、ピンク、グレーの三色を販売中!
やまどうぐレンタル屋さんが運営するヤマトリップショップで、ヤマテンオリジナルグッズを販売しております。これまでは講習会や空見登山ツアーのみでの販売でしたが、オンラインでもご購入いただけることになりました!また、茅野市内の一部カフェや、やまどうぐレンタル屋新宿店でも販売します。人気の観天望気Tシャツは、ブルーとピンク、グレーの三色を取り揃えています。

ヤマトリップショップはこちら
https://yamatrip.com/shop/item/list/yamaten?fbclid=IwAR0nbpBkzRh7HMpgJp2ANv1umBDika4ZLufgEjORlMBkNaX2_nbfIYifaQY

山で使っても部屋に飾っても良しの、ヤマテンオリジナル手ぬぐいも、ヤマトリップで販売してます。

雲が学べる絵葉書セットもぜひどうぞ。

猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。2023年には、気象予報士として初の8,000m峰(マナスル8,163m)登頂を果たし、2024年、世界最高峰のエベレスト(8,848m)登頂を果たす。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影をサポートしているほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信し、信頼を得ている。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)、天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた(ベレ出版)。

  • jRO会員ログイン
  • 好きな山の絵を額縁つきですぐに買える!山の絵つなぐサイト by jRO
  • 会員特典