雲から山の天気を学ぼう|(114)荒島岳で見られた地形による天気の違い
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今回は、イベントで日本百名山の荒島岳(標高1,523m 福井県)に行った時に見られた雲についてお話しします。この日は朝から層積雲(そうせきうん)と呼ばれる雲が山頂にかかっていました。この雲は、雲底(うんてい)の高度が1,500m付近、雲頂(うんちょう)の高度が2,000m付近にある雲で、畑の畝(うね)のように見えることからうね雲とも言われます。
層積雲は、上空2,000m付近に冷たい空気が入り、暖かい海上との温度差が大きくなるときに、暖かい海上でできることが多く、冬の時期には、暖流が流れる日本海や東シナ海の上空に冷たい空気が入るときにできます。層積雲のできる仕組みは下記ページに詳しく書かれているので、興味がある方はお読みください。
雲から山の天気を学ぼう|(102)京阪神地域の冬の雲 ~うね雲~ | jRO 日本山岳救助機構合同会社
この日は、北風が吹く気圧配置でした(図1)。
図1 この日の地上天気図(午前9時)

高気圧の周辺は時計回りに風が吹きます。私は講習会で風は等圧線に沿って吹くと説明しますが、実際にはやや気圧が低い方に向かって線を斜めに横切ります。そのため、この日は高気圧の東側にあたる北陸地方では北風が吹くことになります。天気図から読み取るのが難しいという方は、上空1,500m付近(850hPa面)の風の予想図を見ましょう(図2)。
図2 850hPa面の気温、風予想図

図3 風の見方

風の向きは矢羽根(やばね)と呼ばれる羽根の向きで調べられます。図2を見ると、北陸地方では北風が吹く予想になっています。また、気温を見ますと、上空1,500m付近にはマイナス6℃以下という冷たい空気が入っていることが分かります。つまり、暖かい日本海との温度差が大きくなり、層積雲ができやすい状況です。荒島岳のずっと北には日本海があり、日本海で発生した層積雲が北風に乗って石川県から福井県に入ってきますが、経ヶ岳など県境の山で湿った空気が食い止められることと(図4)、山を越えるときに下降気流となって雲が蒸発していくため、登山口では晴れていました。一方、北側の経ヶ岳方面には層積雲が出ています(写真1)。
写真1 朝のうち経ヶ岳方面に広がる層積雲

さて、出発時に注意すべきポイントやルート上のリスクについて一通りお話しした後、荒島岳の北側にあるカドハラスキー場跡から登山を開始しました。
図4 荒島岳周辺の地形(国土地理院の地形図を著者が編集したもの)

高度を上げていくと、周辺の地形が見渡せるようになります。すると、荒島岳付近より西側では層積雲が広がっていますが(写真2)、東側では良く晴れています(写真3)。これはどうしたことでしょうか。
写真2 荒島岳より西側で層積雲が広がる

写真3 荒島岳より東側では青空が広がる

図4を見ていただくと、荒島岳の北側には荒島岳より標高の高い経ヶ岳(きょうがたけ)があり、その東側にはもっと高い白山(はくさん)の山並みが控えています。このため、北側から入ってきた層積雲や湿った空気はこれらの山を越えることができません。経ヶ岳より西側は高くても標高1,300m前後の山です。層積雲は標高1,500m付近から2,000m付近にできますので、雲はこれらの山を越えて南側に侵入してきます。経ヶ岳のほぼ真南に荒島岳は位置するので、荒島岳を境にして東側では晴れていて、西側で層積雲が広がっているのはそういう理由です。
午後になると、荒島岳の西側でも雲が取れてきました。これは上空の寒気が弱まってきたからです。実際、図5の上空1,500m付近の気温予想図を見ると、マイナス6℃の線が北上して朝の時点(図2)よりも気温が上がってきています。日本海との温度差が小さくなり、層積雲が発生しにくい状況に変わっていきました。
図5 この日の15時における850hPa面の気温予想図

このように地図や天気図を見ることが、雲ができている場所とできていない場所の違いや、雲が消えていくのかそれとも雲が成長していくのかを知る手がかりになります。皆さんも今度、山に行くときに試してみましょう!
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。2023年には、気象予報士として初の8,000m峰(マナスル8,163m)登頂を果たし、2024年、世界最高峰のエベレスト(8,848m)登頂を果たす。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影をサポートしているほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信し、信頼を得ている。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)、天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた(ベレ出版)。














