雲から山の天気を学ぼう|(112)車窓からアルプスの天気を予想しよう ~特急あずさ・中央道編~
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東京方面から八ヶ岳や中央アルプス、北アルプス方面に向かうとき、中央線の特急「あずさ」や中央高速道路を利用する方が多いと思います。実は、登山口に向かう道中の車窓からでも分かることが沢山あります。今回は、冬型の気圧配置が強まるときの天気です。
冬になると、日本列島の東側や北側に低気圧、中国大陸に高気圧がある冬型と呼ばれる気圧配置が多くなります。冬型と言えば、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れという天気が代表的ですが、冬型の気圧配置が強まると、北アルプスや御嶽山では猛吹雪となり、中央アルプスや八ヶ岳、南アルプス北部でも吹雪となることがあり、稜線では暴風が吹き荒れます。したがって、そのような天気のときは、森林限界を超えるのは危険です。
図1 冬型が強まるときの気圧配置

冬型が強まるかどうかは、予想天気図で確認するのがおすすめです。図1のように、等圧線が日本付近でびっしりと走り、間隔が狭いときは冬型が強いときです。
冬型が強まるときは、特急「あずさ」では勝沼~塩山間で左手に見える南アルプスの山並みに注目します。中央道では、一宮御坂から甲府昭和IC間でほぼ正面に見える南アルプスに注目します。
写真1 塩山付近から西の方角の空

写真1では晴れている日に見えるはずの間ノ岳や北岳、鳳凰山が雲に隠れています。このような雲に白根三山や鳳凰山が覆われているときは、南アルプスの北部や八ヶ岳、中央アルプスでは吹雪いており、稜線では強風が吹き荒れています。北アルプスでは恐らく猛吹雪となっていることでしょう。
写真2 鳳凰三山~甲斐駒ヶ岳にかかる雲

韮崎を過ぎると左手に鳳凰三山が見えてきますが、写真2のように、山に雲がかかっているときは冬型が強いか上層の寒気が強い証拠です。いずれにしても山は吹雪いていると思った方が良いでしょう。鳳凰三山~甲斐駒ヶ岳でこのレベルだと、八ヶ岳や中央アルプスはもっと悪い天気になっているはずで、北アルプスは猛吹雪や大雪に見舞われることが多くなります。このようなときは、小淵沢付近から雪がちらつき、富士見駅付近では吹雪いていることもあります。
進行方向右側の席を取った場合には、八ヶ岳にかかる雲が参考になります。八ヶ岳にかかる雲から天気を推測する方法は、88回「冬型の天気 ~八ヶ岳~」をご参照ください。
富士山はこのようなときでも晴れていますが、上層の寒気が強いときは、写真3のように、富士山の山頂付近にモクモクとした雲が出ていることがあります。このようなときは、関東平野でも午後、天気が急変する恐れがあります。実際、この日は午後から天気が急変し、都心でも初雪になりました。
写真3 富士山にかかる“やる気”のある雲

また、富士山で東側にたなびいている雲(旗雲 はたぐも)が出ているとき(写真4)は、暴風が吹き荒れている証拠です。このような日は晴れていても上部で行動することは非常に危険です。
写真4 旗雲が出ているときの富士山

車窓からの風景で、このように目的の山の天気が推測できます。ぜひ、活用して安全に登山しましょう。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。2023年には、気象予報士として初の8,000m峰(マナスル8,163m)登頂を果たし、2024年、世界最高峰のエベレスト(8,848m)登頂を果たす。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影をサポートしているほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信し、信頼を得ている。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)、天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた(ベレ出版)。














