雲から山の天気を学ぼう|(110)予備日を使って好天を掴もう
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※今回の内容は上・中級者向けです。
毎年恒例の空見ハイキング、東北紅葉シリーズ。昨年2024年は月山の美しい紅葉を皆さんに見ていただく企画にしました。紅葉は陽射しがあるかないかでその色合いが大きく違ってきます。やはり晴れた太陽の光で輝く紅葉を見たいものです。そこで、今回は2日目と3日目の日程を入れ替えることができるような日程にしました。当初は2日目が月山の登山、3日目が羽黒山と金峯山の登山予定でしたが、2日目の月山はガス(霧)がかかると予想して、3日目に変更しました。テレビやネット上で見られる平地の天気予報では2日目が終日晴れ、3日目が晴れのちくもりといった予想でした。結果としてこの予報が外れ、私の予想したように2日目が霧、3日目は下山時まで晴れていました。
このように予想した理由について、天気図から解説していきます。
図1 29日発表の2日目(30日9時)の地上予想図
図2 29日発表の3日目(10月1日9時)の地上予想図
まず、2日目(30日)と3日目(1日)の天気図を比べてみましょう。
2日目(図1)では、高気圧が北海道の東海上にあって、東風が吹きそうな気圧配置ですが、日本海中部にも隠れた高気圧があって、日本海側では弱い西風が吹く形です。こうなると日本海側にある月山では湿った空気が少し入りやすくなります。ただし、この微妙な風向は予想が難しいので、取りあえず風向きは不明瞭と判断しても良いでしょう。
一方、3日目(図2)では、東北地方で等圧線が縦に走っていて東が気圧が高く、西が低いことから南風になります。月山では南側に飯豊・朝日連峰、さらに関東山地などが控えており、湿った空気が入りにくい風向になります。また、台風が接近しているように見えますが、この台風の大きさは小さく、等圧線が込み合っている部分では風雨が強まるものの、そこからもまだ離れているため、影響が小さいと判断します。
また、この両日ともに平地の最高気温は30℃近くまで上がることが予想されていました。
このようなときは、上層に寒気が入ると、大気が不安定になり、平地では晴れていても山では上昇気流が発生して雲に覆われることが多くなります。そこで、上層の寒気を見ていきましょう。上層の寒気は高度5,700m付近の500hPa面の気温予想図を見ていきます。地上の気温が上昇し、大気が不安定になりやすい、15時の予想図で確認します。
図3 2日目(30日15時)の500hPa面の気温予想図
※500hPa面の気温予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。
https://www.youtube.com/watch?v=DXiRd7LMg2g&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=9
図3を見ると、東北北部にマイナス9℃線がかかっています。地上が30℃近くまで上がるときは、マイナス9℃以下の寒気が入ると、大気が不安定になりますので、山で雲が発生しやすい気温です。また、図4は図3と同じ高さの高度・渦度予想図ですが、日本海に赤い円形の部分があり、等高度線が南に張り出しています(緑色のカコミ部分)。このような場所には上層の気圧の谷があり、上層で上昇気流が起こりやすくなるところです。つまり、雲がやる気を出して上方へ成長しやすくなります。
図4 2日目(30日15時)の500hPa面の高度・渦度予想図
※500hPa面の高度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。
https://www.youtube.com/watch?v=mkCIzNOKSas&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=10
※500hPa面の渦度予想図の見方は下記youtubeヤマテンチャンネルで解説しています。
https://www.youtube.com/watch?v=p6A0MByEGx0&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70&index=17
図5 3日目(1日15時)の500hPa面の気温予想図
一方、3日目(1日)の気温予想図を見ると、月山付近はマイナス6℃以上になっています。つまり、寒気が抜けて大気が安定していることが分かります。これまでのことから以下のことが分かります。
1.地上天気図から3日目の方が月山に湿った空気が入りにくい風向である
2.500hPa面気温予想図から3日目の方が大気が安定して、雲がやる気を出しにくい
以上のように、天気図を見ることで、より天気が良くなりそうな日に紅葉の美しい場所を訪れるチャンスが増えます。土日のどちらにメインとなる場所を持っていくのか迷うときなど是非、皆さんもチャレンジしてみてください。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。2023年には、気象予報士として初の8,000m峰(マナスル8,163m)登頂を果たし、2024年、世界最高峰のエベレスト(8,848m)登頂を果たす。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影をサポートしているほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信し、信頼を得ている。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)、天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた(ベレ出版)。