雲から山の天気を学ぼう|(105)天気が崩れていくときの雲(東高西低型)

  1. ホーム
  2. > 自救力
  3. > 猪熊隆之の雲から山の天気を学ぼう

今回は、東高西低型で天気が崩れていくときの雲についての解説です。
天気が崩れていくときのパターンは大きく分けて、Ⅰ.温暖前線が接近してくるとき(低気圧の北側に入るとき)とⅡ.寒冷前線が接近してくるとき(低気圧の南側に入るとき)の2つがあります。
今回、ご紹介するのは、この中間型、あるいはⅠに近い中間型と言えるでしょう。
ⅠとⅡのパターンについては、過去の記事をご参照ください。

雲から山の天気を学ぼう|(7)天気が崩れていくときの雲<低気圧の北側と温暖前線編>

雲から山の天気を学ぼう|(8)天気が崩れていくときの雲<低気圧の南側と寒冷前線編>

5月になると、日本の東海上で高気圧が勢力を強めることが多くなります(近年は3月中旬頃から勢力を強めることもしばしばあります)。
そうなると、日本の東海上に高気圧、中国大陸や東シナ海に低気圧という、東の方で気圧が高く、西の方で低いという「東高西低型」の気圧配置になることが多くなります。

図1 東高西低型の気圧配置と地上付近の風向き

東高西低型のときは、南寄りの風が吹くことが多くなります。これは、高気圧の周辺では時計回りに風が吹くからです(図1)。また、中・上級者の方は、尾根の張り出しにも注目すると良いですね。ここは高気圧と同様、下降気流が起きる場所で、尾根から両側に向かって風が吹き出すところなのです。今回のケースだと、尾根の北側では南風が、尾根の南側では北風が吹きやすくなります。
東高西低型になると、日本付近は南風が吹く場所が多くなり、太平洋からの湿った空気が入る太平洋側の山岳では天気が崩れることが多くなります。一方、日本海側の山岳では天気の崩れが遅れ、低気圧や前線が接近した途端、天気が急激に悪化することが多くなります。

図2 南風が吹くときの太平洋側と日本海側の山の天気

ヤマテン事務所のある八ヶ岳周辺は内陸にあるため、太平洋側と日本海側の中間の天気変化になりました。
それでは、早速ヤマテン事務所から見た空の変化を解説していきます。

写真1 ひつじ雲(高積雲)とすじ雲(巻雲)が広がる空

Ⅰのケースと同様に、初めはすじ雲(巻雲)が現れることが多くなります。Ⅰの場合は、ゆっくりと、うす雲(巻層雲)に変わっていき、西の空からうす雲が広がって全天を覆うようになってくると、半日後に天気が崩れていくことが多くなりますが、東高西低型では天気変化が早く、この日はすじ雲と同時にひつじ雲(高積雲)が同時に現れています。
ひつじ雲は気流が乱れているときにできやすいので、その後の天気変化が大きくなる可能性があります。

写真2 西側から広がるうす雲とおぼろ雲(南西側の空を見ている)

その後、南西の空からうす雲が広がっていき、さらに南西側の奥の方にはおぼろ雲(高層雲)が広がってきました(写真2)。Ⅰの場合は、西から広がってくることが多いですが、東高西低型では南西側から広がっていくことが多くなります。さらに、Ⅰの場合は、おぼろ雲が全天に広がってくるときに、わた雲(積雲)が現れることが多くなりますが、東高西低型では、それより早く、うす雲が広がり始める段階で、わた雲が現れることが多くなります。
ただし、わた雲が現れるのは、太平洋側など南や南西側から湿った空気が入りやすい場所になります。諏訪地域では南~南西風が吹くと、天竜川に沿って太平洋からの湿った空気が入ってくるので、わた雲が守屋山上空ででき始めています(図3)。

図3 諏訪地域では、南寄りの風のとき、天竜川や富士川に沿って湿った空気が入る

写真3 おぼろ雲が広がる北西側の空

うす雲が全天を覆うようになった頃、Ⅰのときと同様、西の空からおぼろ雲が広がってきます。その移り変わりはⅠのときより早くなります。
また、おぼろ雲より高度が低い所にひつじ雲のレンズ雲が現れていました。レンズ雲が現れることが多いのも、東高西低型の特徴と言えるかもしれません。この辺りはⅡのパターンと似ています。

写真4 八ヶ岳上空にわた雲が広がり始める

おぼろ雲が全天を覆ってくる頃、八ヶ岳上空にもわた雲が現れてきました。写真4では、左側の北八ヶ岳の方で、積雲が厚みを増していて、右側の南に行くほど雲が少なくなっています。
これは高度の低い所では南南西風が吹いているからで、天竜川からの湿った空気があたる蓼科山~北横岳で雲が厚くなっている一方、南アルプスが南南西側にある南八ヶ岳では湿った空気が入りにくいので、雲ができにくくなっているのです。
いずれにしても、おぼろ雲から太陽が透けて見えなくなり、わた雲が現れてくると雨が降り出すのは時間の問題になってきます。

写真5 雨が降り出した八ヶ岳山麓

このように、雲変化のパターンを覚えておくと、あとどのぐらいで雨が降りそうなのかが分かります。
ただし、太平洋側の山や日本海側の山では八ヶ岳など内陸の山岳と天気の変化が異なるので、注意が必要ですね。日本海側のパターンは、猪熊隆之の観天望気講座168回をご参照ください。

168回
https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/ee8ef57ea82d22d959b8d90f8455662d

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報のご案内
ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報と具体的な気象リスクについての警戒事項を配信しているほか、主要な60山では、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、雨雲・雷の動きが見られるレーダー、落雷・強雨アラートのメール機能、複数の山について受信可能な予報メールなど登山者視点の気象情報を提供しています。ヤマレコアプリでも山の天気予報の一部機能が使えます!


さらに、GWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には、スペシャル予報対象の山で5日間予報または週間予報を発表します。次回は、7月の海の日連休の予報を発表する予定です。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://lp.yamatenki.co.jp/ でご確認ください。

ヤマテンYouTubeチャンネルで、安全登山を学べる動画や天気図の見方などを配信中!
遭難を起こさないための知識、「山の天気予報」の利用方法などの動画を公開していますので、チャンネル登録をお願いします。また、皆様の登山のお役に立てた場合には、高評価を押していただきますよう、よろしくお願いします。
https://www.youtube.com/channel/UCdl4pfoWmvUCUc3K8CwqNLA

「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中です。過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
http://sora100.net/

ヤマテンオリジナル「観天望気」Tシャツ、ブルー、ピンク、グレーの三色を販売中!
やまどうぐレンタル屋さんが運営するヤマトリップショップで、ヤマテンオリジナルグッズを販売しております。これまでは講習会や空見登山ツアーのみでの販売でしたが、オンラインでもご購入いただけることになりました!また、茅野市内の一部カフェや、やまどうぐレンタル屋新宿店でも販売します。人気の観天望気Tシャツは、ブルーとピンク、グレーの三色を取り揃えています。

ヤマトリップショップはこちら
https://yamatrip.com/shop/item/list/yamaten?fbclid=IwAR0nbpBkzRh7HMpgJp2ANv1umBDika4ZLufgEjORlMBkNaX2_nbfIYifaQY

山で使っても部屋に飾っても良しの、ヤマテンオリジナル手ぬぐいも、ヤマトリップで販売してます。

雲が学べる絵葉書セットもぜひどうぞ。

猪熊隆之の新著「天気のことわざは本当に当たるのか考えてみた」が2023年7月20日、ベレ出版より発売!
天気を予測できることわざ、知っていますか? 例えば「アマガエルが鳴くと雨」「ツバメが低く飛ぶと雨」「朝焼けは雨」「夕焼けは晴れ」「暑さ寒さも彼岸まで」「雷三日」などなど……。日本には、昔から言い伝えられてきた、天気に関することわざがたくさんあります。
「これらのことわざの根拠とは?」「本当に天気を予測することができるの?」といった疑問に、山岳気象予報士のパイオニアである著者が答えます!
よく耳にすることわざから、地域特有のもの、山や海で役立つもの、著者の経験から編み出したことわざまで、さまざまなことわざ・言い伝えを解説します! 気象に興味のある方、天気を自分で予測したい人、アウトドアが好きな方など必読の一冊です。

猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。2023年には、気象予報士として初の8,000m峰(マナスル8,163m)登頂を果たし、2024年、世界最高峰のエベレスト(8,848m)登頂を果たす。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。日本テレビ「世界の果てまでイッテQ」の登山隊やNHK「グレートサミッツ」「地球トラベラー」、東宝「春を背負って」など国内外の撮影をサポートしているほか、山岳交通機関、スキー場、旅行会社、山小屋などに配信し、信頼を得ている。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。

  • jRO会員ログイン
  • 好きな山の絵を額縁つきですぐに買える!山の絵つなぐサイト by jRO
  • 会員特典