雲から山の天気を学ぼう|(100)谷川岳で見られた雲part1(冬編)
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12月の谷川岳というと、ひと昔は晴れることがほとんどなかったのですが、近年は地球温暖化の進行などによって、晴れる日も増えてきています。この時も3日間晴れが続き、本当に「これが12月の谷川?」と思うような天気でした。そのときに見られた雲について解説していきます。
写真1 ドピーカンの谷川連峰
谷川岳は、日本海と太平洋を分ける分水嶺ですが、天気の境界線でもあります。日本海から湿った空気が入るときは新潟県側で、太平洋から湿った空気が入るときは群馬県側で霧に覆われることが多く、このように両側ともにすっきりと晴れるときは、それほど多くはありません。特に冬は、冬型の気圧配置になると、日本海から雪雲が侵入し、谷川連峰で上昇気流が強められて雪雲が発達するために、山全体で雪雲に覆われて吹雪になることが多くなります。今日は、空全体を見まわして雲は少なかったのですが、唯一、南側の空に雲が見られました。それが写真2です。
写真2 南関東に広がる雲
さて、この雲の原因を天気図から探ってみましょう。
図1 12月14日6時の地上天気図
天気図を見ると、一見、2つの高気圧が連なる帯状の高気圧に覆われているように見えます。しかしながら、関東の沖合には等圧線がくびれた場所があり、このように、等圧線が気圧の低い方から高い方へ張り出した部分を結んだ線を気圧の谷(赤い破線)と言います。気圧の谷では上昇気流が起きるため、雲が発生することが多くなります。
図2 12月14日12時の地上予想図(ヤマテン専門・高層天気図 i.yamatenki.co.jp./より)
正午の地上予想図を見ると、このくびれがさらに大きくなって、関東地方の沿岸部に接近しています。それに伴って、降水域も予想されています。ここで発生している雲が写真2に映っていた雲の正体だったのですね。
このようなときは、関東南部の山岳では天気が崩れる可能性があるので、北関東や長野県、新潟県の山岳に行くのがおすすめです。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンhttps://www.yamaten.net/の代表取締役。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。「山の日」アンバサダー。中央大学山岳部前監督。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。近年は、山岳気象を学ぶために、予報依頼の多い山に登っており、2019年にはキリマンジャロ(タンザニア)、チンボラッソ(エクアドル)、コトパクシ(エクアドル)登頂。2022年はマッターホルン(スイス・イタリア)登頂。また、多くの登山者に雲を見る楽しさを伝えるための「山頂で観天望気」企画を実施。
「マツコの知らない世界」、「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」「地球トラベラー厳冬 遥かなる利尻山」「にっぽん百名山」「石丸謙二郎の山カフェ」などテレビ、ラジオ出演多数。著書に、山岳気象大全(山と溪谷社)、山の観天望気(山と溪谷社)、山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)、山歩き超入門(エクシア出版)、登山の科学(洋泉社)。