雲から山の天気を学ぼう|(64)~アフリカ最高峰キリマンジャロの空~
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~アフリカ最高峰キリマンジャロの空~
コロナ禍でなかなか海外の山に行けないので、ストレスが溜まってきています(笑)
。ということで、今回は2019年2月、キリマンジャロに行ったときに見られた雲を紹介します。実は、このときまでキリマンジャロに行ったことがなかったのですよね。24時間テレビや、NHKで放送された、桐谷健太さんのキリマンジャロ挑戦など、何度も予報を発表していたのにです。予報するたびにイメージはどんどん膨らんでいきますが、いまひとつ「これっ!」という気象の特性が掴み切れません。だったら行ってみよう。ということになった訳です。
初めてのアフリカ大陸。初めてのキリマンジャロ。どんな雲が見られるのかドキドキです!
結果は期待を裏切らず、面白い雲を毎日のように、見ることができました(笑)。さて、登山の際に見ることができた雲についての解説をする前に、キリマンジャロの気候についてお話しします。キリマンジャロは赤道のすぐ南側にあり、アフリカ大陸の真ん中辺りに位置します。
山の天気は、海との位置関係が重要です。キリマンジャロは東側にインド洋があるため、この海が大きな影響を与えています。また、赤道の近くにあるため、気温は一年を通じてあまり変わりませんが、雨季と乾季があります。雨季は3月中旬から6月にかけて(こちらを大雨季と呼びます)と、10月から12月上旬にかけてです。後者は小雨季と呼ばれ、降水量は大雨季よりもかなり少なくなります。従って、登山適期は乾季になる12月中旬から2月にかけてと7月から9月にかけてですが、赤道に近いとはいっても南半球のため、7月から9月はやや気温が下がります。そのため、12月中旬から2月にかけての方が登りやすい気象条件になることが多くなります。
また、キリマンジャロは大型の成層火山(富士山と同じタイプの火山)で、3つの主な火山から成り立っており、東西約50km、南北約30kmの山体を擁します。そこで南北、東西であるいは山麓と山頂付近とで天候は大きく異なります。
キリマンジャロの天気に大きな影響を与えるのは、南東と北東の季節風です。私が行ったのは2月下旬から3月上旬にかけての乾季の終わり。南半球の夏にあたる2月は亜熱帯高気圧がキリマンジャロ付近まで南下し、この高気圧に覆われて晴れる日が多くなりますが、高気圧の位置が少しでも南に偏ると、高気圧から吹き出す南東風が吹くようになります。逆に、高気圧の位置が少しでも北に偏ると、北半球側からの北東風になります。キリマンジャロの北東側には砂漠地帯が広がっており、乾いた空気に覆われています。北東風が吹くときは乾いた空気が入り、キリマンジャロの天気は良くなりますが、南東風が吹くときは、インド洋からの湿った空気が入り、その湿った空気が山にぶつかって上昇して雲を作るため雨が降りやすくなります。キリマンジャロの南東斜面では湿った南東からの空気を受けやすいために雨の量が多くなり、鬱蒼としたジャングルを形成しています。また、南西斜面でも南側からの湿った空気が谷風(たにかぜ)によって上昇するので雲ができやすく、雨量が多くなります。谷風については、第23回をご参照ください。
今回の登山では、北東からの乾いた風と南東からの湿った風とのせめぎ合いが見られ、どちらが勝つかによってその日の天候が決まりました。
期間のはじめは、南東の季節風が吹いており、インド洋からの湿った空気が入る気圧配置でした。日本の夏山と同様に、熱帯地域では陽射しがある日は日中、地面付近が温められて谷風と呼ばれる風が吹きます。この風によって上昇気流が起き、雲が発生します。一方で、朝晩は山から山麓に向かって吹く(山風と呼びます)ので、山では下降気流となり、お天気が良くなります。キリマンジャロに登頂するとき、夜中に出発して昼過ぎに山小屋へ下山するのは、午後は谷風によって雲が発生し、天気が崩れることが多いからです。
登山初日、キリマンジャロの山麓にあるロッジでキリマンジャロの姿を拝むことができました。前日の夜、激しい雷雨になったため、空気中に水蒸気が多く含まれており、山麓では朝から雲に覆われていました。しかしながら、気温が上昇し始めると、雲が蒸発していき、青空が広がってきました。写真1はそのときに撮影したものです。
谷風がまだ吹いていない時間なので、山はよく晴れています。山に雲がかかっているように見えますが、これは山の手前側の低い雲です。雲の種類も層積雲(そうせきうん)と呼ばれる低い雲で、雲は上方に発達している様子はありません。つまり、やる気のない雲です。
一方で、写真2のように雲が上方へモクモクと発達している雲は、やる気のある雲です。「やる気のある雲、ない雲」については、第10回をご参照ください。
やる気のある雲の下では激しい雨が降り、雷や雹を伴うこともあります。写真2は午前6時過ぎに撮影したものです。早朝からこのような雲が周囲で発達しているときは、その後の天候変化に要注意です。特に、このときは南東風が吹いており、風上側の南東側でこの雲が見られました。風上側でやる気のある雲が見られるときは、日中、この雲が接近して落雷や激しい雨に襲われる確率が高くなります。この日、この後の天気がどうなったのかは次回のお楽しみということで。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。