雲から山の天気を学ぼう|(60)~地形によって変化する雲 伊吹山空見ハイキングより~

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~地形によって変化する雲 伊吹山空見ハイキングより~

今回は、数年前、伊吹山のツアーの際に見られた雲について書かせていただきます。
この日は低気圧が南岸沿いを通過する状況で、出発時には激しい雨が降っていました。お天気を学ぶツアーでは、雨だからといって中止にしません(逆に天候判断や雨具の着方、雨の日の休憩の仕方など学べることが多い)が、気象リスクが高い状況が予想されたり、交通機関が乱れたりする可能性が高いときには、ツアーの催行を取りやめることがあります。

今回のツアーでは、机上でのお天気講座をした後、伊吹山でハイキングを行う予定でした。伊吹山の山頂近くまで専用バスを使い、歩行時間は短いこと、気象リスクが大きい登山ルートではないこと、朝のうちは激しい雨が降るものの、日中は雨が弱まっていくことが予想されたため、予定通り、出発しました。
さて、まずは雨が弱まっていくと判断した理由について書かせていただきます。登山前日に確認した、当日の予想天気図(図1)を見てみましょう。これを見ると、四国沖に低気圧があり、東へ進んでいます。典型的な南岸低気圧(本州の南海上、または南岸沿いを進んでいく低気圧)の気圧配置です。この場合、太平洋側を中心に悪天が予想されます。

図1 登山当日の朝6時の地上天気図

ところで、今回の低気圧では、衛星画像や雨雲レーダーを確認すると、中心付近より東側で雨雲が発達していました。850hPa(高度約1,500m)の相当温位と風の予想図(図2)を見てみると、赤い色の部分(相当温位が高いエリア=暖かく湿った空気がある場所)が近畿地方の方に入りこんでおり、伊吹山付近では南風が吹いていることから、南側から暖かく湿った空気が入り込んでいることが分かります。このエリアで雨が強く降りました。

図2 5月12日3時を基準とした5月13日9時の850hPa相当温位と風予想図
※ヤマテン「山の天気予報」https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より

ということは、低気圧が伊吹山の真南に来る頃には、雨は弱まるということです。図3を見ると、低気圧が12時には伊吹山の真南に来ています。ということで、机上講習をじっくりと時間をかけておこない、お昼頃からハイキングをスタートする、という作戦に出ました。
図3 5月13日12時の地上天気図

狙いは見事にあたりましたが、山頂はガスガス・・・。「ここはどこ~?私は誰?」状態。
写真1 伊吹山山頂近くの駐車場

こうなると、空見は行えない(涙)・・・。ということで、ガス(霧)について説明することにしました。実は、ガス(霧)にも2種類あるんです。

1.良いガス・・・上を見上げると、明るさがある。太陽が透けて見えることも。
2.悪いガス・・・上を見ても明るさがない。

次に、ガスが取れるときの法則を皆さんに教えます!

1. 風がないときは、風が吹いてくるとき
2. 風が強いときは、弱まっていくとき
3. 風の向きが変わるとき(海側からの風から陸側からの風になるとき)

今回は、駐車場を降りた途端、東風が強く吹いていました。そして、山頂から下山したときには北よりの風に変わり、風は弱まっていました。ということで、2と3に当てはまりましたが、残念ながら晴れず・・・。

ところで、今回、山頂付近で風が東から北に変化しましたが、風の変化で低気圧が今、どこにあるのかが分かります。

図4 低気圧周辺の風向き(山岳気象大全「山と渓谷社」より)

上図のように、低気圧の周辺では反時計周りに風が吹き込んでいます。今回のように低気圧が山の南側を通過すると、図5のように、反時計周りに風向が変化します。低気圧が通過する前は南東、通過しているときは東から北東、通過した後は北から北西というように風向きが変化するのです。今回は東から北に変わってきたということで、低気圧がまさに南側を通り過ぎたことが分かります。ただし、この風向判定は、地形の影響を受けにくい、木が生えていない稜線や尾根上でおこないましょう。

図5 低気圧と山との位置関係による風向の変化(山岳気象大全「山と渓谷社」より)
さて、思惑通りにいかなかった理由は、低気圧通過後(図6)も高気圧の張り出しが弱く、等圧線の間隔が広がっていてまだ弱い低圧部に入っていること、低気圧が陸地近くを通ったために、湿った東よりの風が続いたことなどが原因として考えられます。

図6 低気圧が伊吹山を通過した後の地上天気図

その証拠とも言える写真を紹介しましょう。山頂はガスガスだったので、ドライブウェイをしばらく降りた中腹で車を降りました。すると、雲の下に入り、東側から流れ込む雲の正体が見えました。

写真2 伊吹山中腹から見た左方向(東側)から流れ込む低い雲

左側から雲が入ってくる場所は伊吹山と養老山地の間の谷になっており、東風や西風が集まってくる場所で、そこが雲の通り道になっているようです。左側から侵入してきた湿った空気が上昇して雲ができ、右側の琵琶湖方面に下ると消えていきます。

図7 伊吹山周辺の地形。伊吹山と南側の養老山地との間に廊下のような通路ができ、そこが湿った空気と雲の侵入路になっています。
濃尾平野の向こうには伊勢湾があります。海の上の空気は水蒸気が多いので、低気圧が持つ湿った空気と伊勢湾からの湿った空気が一緒になって、この廊下状の地形を通ってきたのですね。
天気が悪いなりにも、色々学ぶことがあるんですね~。ということでお天気ツアーは雨でも決行です(笑)。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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企画・実施:アルパインツアーサービス株式会社

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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