雲から山の天気を学ぼう|(46)山で出会う神秘的な現象(信州・三峰山、美ヶ原)
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~山で出会う神秘的な現象(信州・三峰山、美ヶ原)~
今回は登山中に時折、出会う神秘的な現象についての解説です。いずれも太陽光が雲粒(氷の結晶)に反射、散乱、屈折することによって見ることができます。結晶の大きさや向きや位置、太陽光の角度などによって見られる現象は異なります。
最初は日暈(ひがさ、にちうん、英名ハロ)です。こちらは比較的よくみられる現象です。
写真1 ハロ(栂池自然園より)
日暈は、雲を構成している氷の結晶を太陽の光が通るときに、光が氷の結晶で屈折することによってできます(下図参照)。上の写真で光の環ができている周辺はぼやっとした薄い雲が広がっています。
このような雲を巻層雲(けんそううん)または薄雲(うすぐも)と呼び、高い高度にあるので、水滴ではなく、氷の粒でできています。この粒が六角形で、なおかつ結晶が色々な方向を向いているときに、この光の環ができます。
色が分かれて見られるのは、プリズムの原理と同じです。太陽の光が氷の結晶に入ったときに、色によって光の屈折の仕方が違うからです(下図参照)。
図1 プリズムによって光が分かれる原理
日暈には写真1のように太陽を中心とした半径22度の円としてできる内暈(ないうん、うちがさ)とそれより外側にできる半径46度の円、外暈(そとがさ、がいうん)があります。太陽の光が氷の結晶を通るときの屈折の仕方によって、内暈になるか、外暈になるかが変わってきます。外暈が見られることは珍しく、見ることができたあなたはラッキーです!!
続きまして、三峰山(長野県、中央分水嶺)で見られたブロッケン現象です。
写真2 三峰山で見られたブロッケン現象
この現象は、太陽の光の波長と、粒子の大きさが同じ条件でないとみられません。したがって、太陽の波長よりも大きすぎる雨粒では発生しません。雲や霧の粒は、太陽の波長と同じ位の大きさになるので、ブロッケン現象が見られます。
ブロッケン現象は、雲や霧が正面にあり、なおかつ観察者よりも低い場所にあって、背後から太陽光線が入るときでないと見られません。太陽の光が雲や霧の粒という障害物を通過するとき、それらの後ろに回り込もうとします。その際に、回り込む角度が色によって異なるために色が分かれて虹色に見えるのです。この現象は、観察者が雲より高い場所にいないと見られないことから、山の上や、飛行機からしか見ることができません。山では、稜線を境にして片方が霧で、片側が晴れているときによく見られます。飛行機では太陽と反対側の窓際の席を予約するようにしましょう。日中に羽田から福岡へ向かうときは、進行方向右側の席を予約しましょう。
写真3 機窓からのブロッケン現象。飛行機の影が投影されている。
最後に、珍しい現象をご紹介します。数年前、美ヶ原高原の山本小屋で見られた太陽柱(たいようちゅう)です。これは、太陽の光が薄い氷晶や横に寝た形の長い氷晶に反射して、太陽の虚像として見られる現象です。
写真4 山本小屋からの太陽柱(サンピラー)
太陽柱は①雲粒(薄い氷晶や横に寝た形の長い氷晶)
②ダイヤモンドダスト(空気中の水蒸気が昇華して氷晶になったもの)
のいずれかに反射することで見られます。①の場合は日没や日の出の際に見られることが多く、②の場合はダイヤモンドダストが氷点下15℃以下にならないと出現しにくいことから、寒冷地でよく見られます。
図2 太陽柱のできる仕組み
写真4は日の出の際に見られた太陽柱です。一方、写真5はダイヤモンドダストによる太陽柱です。
写真5 ダイヤモンドダストで見られた太陽柱
撮影:和田幸恵さん
こうした、思いもかけぬ光景が見られると嬉しくなりますね。山に登っているとき、時々空を見上げてみてはいかがでしょう?
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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2020年度ヤマテン主催「山のお天気講座」
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第1回 1月18日(土)・・・終了しました
初級編:気象遭難しないための天気図の見方
中級編:ヤマテン専門天気図の利用方法
午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
講習会の約1ヵ月前に募集開始します。ヤマテンのホームページ https://www.yamaten.net/で告知します。
講師:猪熊
初級編、中級編ともにそれぞれヤマテンポイント1
第2回 3月28日(土)
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中級編:低気圧の発達と春山の気象リスク
会場:江戸川区民文化センター(予定)
午前中に初級編、午後に中級編を予定しています。
講習会の約1ヵ月前に募集開始します。ヤマテンのホームページ https://www.yamaten.net/ で告知します。
講師:渡部(予定)
初級編、中級編ともにそれぞれヤマテンポイント1
ヤマテンポイントについて
ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。