雲から山の天気を学ぼう|(43)日本海の雪雲の正体
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~日本海の雪雲の正体~
これからの季節、冬型の気圧配置と呼ばれる気圧配置の日が増えていきます。冬型になると、日本海側では雨や雪、太平洋側では晴れ、といった天気になりますが、実際には、日本海側でも晴れている所もあれば、太平洋側でも雨や雪が降っている場所もあります。そこで、冬型の気圧配置によって、日本海側に悪天をもたらす犯人を突きとめるため、松本空港から新千歳空港へ向かいました。機窓から見た日本海の雲に、犯人の手がかりが隠されています。皆さんで一緒に真犯人を見つけていきましょう!
まずは、この日(2016年11月3日)の天気図を見ていきます。
図1 11月3日12時の天気図
図1を見ると、北海道の南と関東の南東海上に低気圧があり、中国大陸には高気圧があります。日本から見て西の方が気圧が高く、東の方が気圧が低い“西高東低(せいこうとうてい)”の冬型の気圧配置になっていることが分かります。このようなとき、等圧線は南北に走り、日本付近では北西の季節風が吹きます。
中国大陸はこの時期、冷え込みが強まって乾燥しています。そこから吹いてきた風は、冷たくて乾いた空気(カラカラ君)です。それが日本海を渡る間に、下から水蒸気の補給を受けて湿った空気(ジメジメ君)に変質し、雲が発生します(図2参照)。また、日本海を渡る間に、日本海の水温が高いので、(図5のように11月初旬は北陸地方の沖合で18℃以上あります)海に接した下の方の空気は次第に温められていきます。一方、上空はシベリアからの冷たい空気が入ってきて冷たいままです。そのため、空気の高い所と低い所の間で温度差が大きくなり、大気が不安定となって対流(たいりゅう)が発生します。対流というのは、上下の温度差が大きくなるときに、温度差を和らげようとして起こる空気の運動のことです
空気は上下の温度差が大きくなると、暖かい空気が上へ、冷たい空気が下へ行くことによって上下の温度差を和らげようとします。このとき、一斉に冷たい空気が下に、暖かい空気が上に行けば、お互い衝突して、思いを果たすことができません(図2)。
図2 温かい空気と冷たい空気がお互い譲り合わないと・・・
そこで、温かい空気と冷たい空気は譲り合います。温かい空気が上昇するところでは冷たい空気は下降することを我慢する代わりに、その隣で冷たい空気が下降し、冷たい空気が下降するところでは温かい空気が上昇するのを我慢して、その隣で上昇する。空気はなんと賢いのでしょう!つまり、温かい空気が上昇するところと冷たい空気が下降するところが交互になります(図3)。そして、上昇気流が起きるところで雲が発生し、下降気流が起きるところでは雲がなくなる訳です。
図3 対流がおきる仕組み
この雲は大気が不安定になればなるほど(つまり、上空に強い寒気が入って上下の温度差が大きくなるほど)上方に成長していきます。こうして発達した雲が雪雲になります。そして日本列島に侵入すると、日本の中央部にある高い山にぶつかってさらに発達し、大雪をもたらすのです。
図4 日本海を渡る間に発生、成長する雪雲(「山岳気象大全」山と渓谷社より)
一方、山を越えた雲は降雪として落下するため弱まり、また、山を吹き降ろす下降気流によって次第に蒸発していきます。このため、山の風下側では天気が良くなるのです。
写真1 北アルプスにかかる雪雲と風下側の晴天域
写真1を見ると、雪雲が山を越えて弱まる様子がよく分かります。山の反対側(写真では奥の方。日本海の方向)から押し寄せてきた雲が山にぶつかって上昇するため成長し、山を越えると下降気流となるため、雲が蒸発してなくなっています。山の手前側では雲が全くない状態です。
さて、日本海でできる雲は、風の強さや上空の寒気によって、その形状や成長の度合が異なってきます。日本海と上空との温度差がある程度、大きくなってくると、先ほど説明した対流という現象が起きます。こうしてできる雲が写真2の雲です。
写真2 ベナール対流により発生した雲
図5 日本海の水温(気象庁HPより) 東北から北陸地方では18℃以上もある。
図6 3日15時の1,500m上空の気温予想図 北陸地方まで0℃以下の冷たい空気に覆われる予想となっている。
写真2の雲は上空の寒気が強まると、大気が不安定になるため、成長して写真3のような雲になっていきます。
写真3 発達した積乱雲(雪雲)の雲列
上の写真では左上から右下の方に向かって、写真2の雲より背が高くなった積乱雲が連なっています。これは、写真2の場所より写真3の方が上空の寒気が強く、風の収束によって上昇流が強められて雲が発達したためです。上空の風が強いと、雲が風下側に一列に並んでいきます。
写真4 雪雲の中でひときわ発達した雲
また、雲は山岳にぶつかることによって成長します。日本海から侵入してきた雪雲は一様に成長するのではなく、山の形や山脈の向きによって発達度合が変わってきます。写真の真ん中やや左寄りに、ひときわ盛り上がった白い雲(赤い囲み線の部分)が見えますが、この下には周囲の山より高い白馬三山があるためです。一方、奥の方は雲が切れているように見えますが、この辺りは日本海になっているため、山によって空気が上昇させられず、雲がそれほど発達できないのです。
これからの季節、日本海には塊状や筋状の雪雲や雨雲が現れることが多くなります。衛星画像で見ると、筋状に綺麗にならんだ雲が見られます。この雲も一様ではなく、済州島や屋久島の風下側には渦を伴った雲が連なるカルマン渦が見られることがあったり、日本海側の地方に大雪をもたらす、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)に伴う雲が見られることもあります。毎日、衛星画像を見ていると、同じ冬型でも色々な雲が見られることが分かり、面白いです。次の機会には、そのような話もしてみたいですね。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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受講料:3,000円 ヤマテンポイント各1
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4/24(水):山岳気象のキホンと春山の気象遭難・・・終了しました
5/29(水):高気圧と低気圧、前線・・・終了しました
6/19(水):梅雨期の気象の特徴とリスク・・・終了しました
7/10(水):夏山の気象~落雷と短時間強雨から身を守るための知識~・・・終了しました
8/21(水):台風の進路予想図の見方と登山上の注意・・・終了しました
9/25(水):気象遭難を防ぐための天気図の見方(秋山編)・・・終了しました
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。