雲から山の天気を学ぼう|(33)~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅠ~

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~尾瀬ヶ原雲見ハイキングで見られた雲partⅠ~

今回は、先日行われた尾瀬ヶ原での雲見ハイキングで見られた雲についての解説です。
2日目(14日)の早朝、尾根と尾根の間から霧が流れ込んできて幻想的な光景になりました。

写真1 山と山の間から雲が湧いてくる。

上の写真は竜宮小屋から至仏山を見たものです。至仏山の手前に雲が湧き出ているのが分かります。それが右方向に移動しながら消えていきました。

写真2 滝雲になり損ねた雲

写真2は、八海山と至仏山の間の谷間に雲があります。それが尾瀬ヶ原の方に入ってくるとやはり消えています。風が弱かったため、雲が勢いよく流れ下る滝雲(たきぐも)にはなり切れていませんが、なかなか面白い現象です。

写真1も写真2も尾根と尾根の間の谷間にできた雲が尾瀬ヶ原の方に流れて消えていることが分かります。どうしてでしょうか?その謎を解くために、一つずつ疑問を解決していきましょう。

1. どうして谷間で雲ができているのか?

ひとつ目の疑問、どうして谷間で雲ができているのかについてです。その答えは地形にあります。地図を見てみましょう。

地図1 尾瀬ヶ原周辺の地図と雲が発生した場所

上の地図を見ると、写真1の雲があるのは「湿った空気①」と書かれた所、写真2の雲があるのは「湿った空気②」と書かれている所です。いずれも三方を尾根に囲まれた盆地のような地形になっていることが分かります。
このような地形では、夜間、地面付近の熱が逃げていき、上空より気温が下がることで山風(やまかぜ)という風が山の斜面や谷の上流側から吹き降ろしていきます(図1参照)。

図1 山谷風の原理(山岳気象大全より)

山の斜面や沢から蒸発した水蒸気がこの山風によって下流側に運ばれ、盆地状の地形では谷の出口が狭くなっているために、そこに水蒸気が溜まり、湿った空気を形成したものと思われます。

2. どうして尾瀬ヶ原に入ると雲が消えていくのか?

次の疑問は、「どうして盆地状の所で発生した雲が尾瀬ヶ原に入ると消えていくのか。」についてです。答えは2つあります。
1つ目は湿った空気がある場所の方が尾瀬ヶ原より高い場所にあり、盆地内に溜まった空気が限界に達すると、出口から下流側へ吹き降ろしていきます。つまり、空気や雲が下降していく訳です。空気は下降すると温まるという性質があり、雲粒は蒸発して消えていきます。また、写真2の方は、上空に安定した層がある(地面付近に冷たい空気、上空に温かい空気がある状態)ため、雲が安定した層に閉じ込められて、雲の上端が平べったい形になっています(写真4)。

写真3 写真1に解説を入れた図(谷間にある湿った空気が尾瀬ヶ原に入って消えていることが分かる)

写真4 写真2の解説図(画面奥の盆地状の地形に溜まっていた雲が尾瀬ヶ原に下り、消えている様子が分かる)

2つ目は尾瀬ヶ原自体に水蒸気量がそれほど多くなく、湿っているとは言えない状態であったことです。秋の朝、尾瀬ヶ原は霧が発生することが多くなります。これは尾瀬ヶ原自体が大きな盆地のような地形になっていて、冷たい空気が溜まりやすく、夜間に蒸発した水蒸気が冷やされて水滴、つまり霧の粒になっていくためです。ただし、この日の朝は、夜間に南風がやや吹いたことや、上空が雲に覆われてそれほど気温が下がらなかったこともあり、霧(雲)ができにくい気象条件でした。このように、尾瀬ヶ原上空の空気があまり湿っていなかったため、尾瀬ヶ原上空に入ってきた雲は蒸発してしまったと思われます。

3.番外編

写真5 写真2(写真4)右側の山にかかる雲

さて、写真2(写真4)で湿った空気②によってできた雲が尾瀬ヶ原に下っているときに雲粒が蒸発し、水蒸気に戻っていく話をしました。その水蒸気が再び山の斜面に沿って昇っていき、雲になっているのが上の写真5の橙色の矢印部分です。
また、写真2(写真4)の湿った空気②によってできた雲が山を越えて滝雲のように流れ下っている様子が分かります(写真5の緑色の矢印)。こちらでは安定した層が山の高さの少し上にあったため、山と安定した層の間を空気が勢いよく通り抜けた結果、吹き降りる風が強まったのでしょう。

このように、ひとつひとつの何気ない雲の存在が、空気の気持ちを語ってくれています。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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