雲から山の天気を学ぼう|(20)~ある晴れた日の突然の大雨を予想する~
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~ある晴れた日の突然の大雨を予想する~
あ今年の5月は雨が少なかったのですが、私の住んでいる八ヶ岳西面の山麓では5月17日(水)に極地豪雨に見舞われました。すぐ隣の諏訪市ではほとんど雨が降らなかったので、アメダスなどの観測データには、この豪雨は現れませんでした(解析雨量にはわずかに現れました)。一方、18日(木)は東京に出張でしたが、新宿に到着すると、土砂降りの雨でした。このときも直前に通過した中野付近では雨はほとんど降っていませんでした。
あこれらの局地的な強雨をもたらした雲の正体は積乱雲です。積乱雲は入道雲とも呼ばれ、ソフトクリームヤカリフラワーのような形をした美味しそうな雲ですが、落雷や局地豪雨、大雨、突風、降雹などをもたらす危険なヤツなんです。実は、この危険なヤツは神出鬼没で、前日にどこで何時に出現するのかを予想するのは現代の予報技術からしても難しいのが実情です。
あ実際、17日、18日の地上天気図を見てみると・・・
あいずれも高気圧に覆われて天気が崩れそうもない気圧配置です。
あそれではなぜ、このような危ないヤツが発生したのでしょう。
あ第10回の講義で、雲にはやる気のあるヤツとないヤツがいると説明しました。雲がやる気を出すと、上方にもくもくと成長し、危ないヤツ(積乱雲)になっていくのです。雲のやる気を左右するのは、
1.上層(高度5,000m以上)に強い寒気が入る
2.下層(高度1,500m以下)に温かく湿った空気が入る
あこの2つが重要でした。5、6月の時期には時々、内陸を中心に日中、30℃を超えるような暑い日がありますが、そのようなときに上層に強い寒気が入ると、俄然雲はやる気を出します。5月中旬から6月上旬に時期には500hPa面(高度約5,700m付近)でマイナス15~18℃以下という寒気が目安となります。これが落雷や局地豪雨が発生する可能性を前日までの段階で知る手がかりになります。
あさて、茅野市付近で局地豪雨が発生した17日と東京都心で激しい雨が降った18日との寒気を見てみます。
図3 500hPa(高度約5700m付近)の気温(5月17日12時)
※図1、図2ともに「山の天気予報」 https://i.yamatenki.co.jp/ 専門天気図より
あこれらの図を見ると、500hPaでマイナス18℃以下の寒気が向かっていく方向で(マイナス18℃以下の寒気の南側や南東側)で局地豪雨が発生しています。
あ高気圧に覆われて晴れ予想になっていても、このような寒気が入ってくるときは、落雷や局地豪雨のリスクを考えましょう。ちなみに、梅雨明け以降、真夏の時期の目安はマイナス6℃以下になります。
ああとは、現場での判断ということになります。登山口、あるいはその日出発する山小屋や幕営地で雲のチェックをします。
あ上の写真は、朝早い時間の八ヶ岳方面を見た写真です。八ヶ岳にもくもくとした雲が出ています。午後になってこのような雲が出てくることは珍しいことではありませんが、朝からこうした雲が出ているときは要注意です。日中、地面付近の気温があがって上空との温度差が大きくなると、益々雲がやる気を出してしまうからです。出発時の雲観察は重要なんですね。
あ実際、この日は午後になると、写真3(上)のように、雲がやる気を出していきました。この日は、私の住む八ヶ岳西面よりも東面(小海線側)の方が気温が上昇し、水蒸気も多かったため、八ヶ岳の反対側(奥)で雲が発達しました。
写真4 立川~日野間の多摩川の陸橋から都心方向の積乱雲群を見る
あ写真4(上)は、18日に特急あずさの車窓から見た都心から川崎方面にある発達した積乱雲群です。このように積乱雲は複数の雲から成り立っていることが多く、それらが同じ場所で盛衰を繰り返すと、その場所で記録的な豪雨となります。
あ山の稜線を歩いているときに、こうした積乱雲が集団で接近してくるときは、すぐに避難しましょう。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。