田中陽希の安全登山への道|「休憩」は体を休めるだけではない

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人は黙々と歩き続けられないから「休憩」や「宿泊」で体を休めることは大切だ。休憩時間も含めて登山の行動計画をすることで、時間にゆとりを持って行動することができる。そして「休憩」はただ体を休めるだけではない。休憩しながら地図や計画表を確認することで、登山が安定してリスク軽減につながるのだ。グレートトラバースに挑戦するまでは、「休憩」は体をただ休めるだけのものだった。でも、心身をほぐして山とも向き合える「休憩」を3百名山の旅で知ってしまったのだ。
2018年10月北アルプス雲ノ平にて

休憩時間も登山中

登山計画の参考にするコースタイムには、「休憩」や「宿泊」といった停滞時間は考慮されていない。計画するときにはその時間もあらかじめ確保する必要がある。体力の消耗が激しくて単調になりがちな登りでは、休憩がとくに大切だ。行動に変化ができ、気分転換にもつながる。

例えば、入山から下山までのコースタイムが6時間だった場合には、休憩時間を少なくとも1~2時間は入れたいところだ。そうすると実際の行動時間は8時間ほどになる。地図から読み取れる登り下りや地形を見ながら、休憩を取る場所や時間をあらかじめ決めておくともっといい。登山をしながら休憩場所を探したり、下山時間を考えて休憩時間を計算したりするのは大変だ。頭の中に地図ができるから、アクシデントが起きた場合に臨機応変に対応できるようにもなる。

「5合目の展望台で、眼下に広がる景色と目指す頂上を眺めながらのコーヒータイムにしよう」「8合目の冷たい清水で喉を潤して、最後の登りに向けてリフレッシュしよう」などと、地図を眺めながら登山をイメージした日々が懐かしい。
2018年11月奥三界岳山頂

休憩で心がけていること

長く休みすぎてしまうと温まっていた体が冷えたり、集中力が低下したりする。登山中の「休憩」で一番気をつけているのは、「休憩し過ぎない」ということだ。登頂するまでは、長くても10分、平均して5分ほどでさっと休憩するように心がけている。

計画通りに「休憩」できないことも想定しておく。体力と時間のかかる登りに、計画していたよりも「休憩」が多くなって行動時間が長くなることもある。夏山や紅葉シーズンの山が登山者で賑わうと、登山道や休憩ポイントが渋滞して計画通りに休憩できないこともある。

休憩が思うように取れないと、登山全体が後手に進んでしまう。歩くペースが乱れ、行動時間も狂い、下山の体力まで削られてしまうと、予期せぬトラブルや遭難につながるリスクにもなる。これらの事例の多くが下山中に起こることも納得だ。多くの登山者は夜明け前や早朝から行動して、「渋滞回避」と「行動できる時間帯を長く確保」することでそのリスクを軽減している。「ゆとりある登山」を心がけることで、登山のセオリーである「早出早着」が自然と身につくのだろう。
2018年鍬崎山山頂にて休憩

休憩時間も含めた「ゆとりある登山計画」を

登山を計画するときには、「ゆとりある登山計画」を常に大切に意識している。
基本とするAプランの他に、Bプラン、Cプランまで事前に考えておく。Aプランで計画外のことが起こったときに、バックアッププランがあることで焦りや迷いを軽減することにつながるからだ。

たとえば、

【Aプラン 基本計画】
7:00  登山開始(山頂までのコースタイム3時間30分+休憩30分(5分×6回))
11:00 登頂(山頂休憩時間1時間)
12:00 下山開始(下山口までのコースタイム2時間+休憩15~30分(5分×3~6回))
14:30 下山予定

【Bプラン 予想よりも登りに時間がかかってしまった場合】
7:00  登山開始(山頂までの所要時間4時間+休憩1時間(10分×6回)
12:00 登頂(山頂休憩時間1時間半。下山のために体力の回復を計って少し長めに。)
13:30 下山開始(下山口までの所要時間2時間30分+休憩30分(10×3回))
16:30 下山予定(下山も時間がかかることを想定。日没時間まで余裕ある計画で不安や焦りも軽減。)

【Cプラン 渋滞や寝坊などが原因で、スタートが一時間遅かった場合】
8:00  登山開始(スタート遅れた焦りから、ペースの速さ、休憩回数の減少、体力消耗を想定。途中下山も視野に。)
12:00 登頂(山頂休憩時間2時。登れた安堵感や速いペースによる疲労感でいつも以上に長くなる休憩時間を想定)
14:00 下山開始(下山が日没となる可能性を想定。よりリスクの低く、コースタイムの短い下山ルートに変更。)
18:00 下山予定(日没後の下山の可能性も想定。ヘッドライトを取り出しやすい場所に準備)

地図などを用いて、より事細かなプランニングをしていくと、登山中に起きるアクシデントへの対処がしやすくなる。事細かなプランを考えていなくても「下山の最終リミットは○時」と決めておくだけでも、登山中の時間管理ができるようになって「ゆとりある登山」につながる。

「休憩」の取り方で登山の質が変わる

2019年12月粟ヶ岳山頂にて休憩

休憩は「体の休息」「水分・食糧補給」「景色の観賞」だけの時間ではない。「時間の記録」「行動計画の確認・修正」「計画確認から先の行動予見」をすることで、気持ちも落ち着いて登山が安定し、リスクの軽減につながる。

日本の山は本当に千差万別で、いつもと同じように登れる山は少ない。だからこそ、登山者を魅了して楽しませてくれるのだろう。しかしそれは、登山者が登る山にしっかりと向き合い、登り方を考える必要があるということでもある。コースタイムも標高差も季節も同じでも、登山道のコンディションが違う。そのたった一つ条件が違うだけで、想像以上に体力を消耗し、自身の身体にストレスがかかることもある。適度に休憩を挟むことで、過度に張り詰めた緊張を解きほぐしたり、狭くなっていた視野をリセットさせたりすることができる。

百名山、2百名山の挑戦はただひたすらに自分の足下だけを見つめ、自分と山頂を登山道という線で結ぶだけの登山だった。3百名山の旅には、時おり足を止めて腰を下ろした。来た道を振り返り、周りに目を向けて、自分を中心に山を面で捉えるようになった。休憩をちゃんと取って、ゆとりある登山になったのだ、山頂でコーヒーを入れちゃったり、ランチを作っちゃったりしていたら、1時間以上過ごすことも多かった。山頂で「晴れるまで待つ」と山と根比べできちゃうほど余裕を持てたこともあった。

たどり着いたその場で適切な休憩を取ることで、心身にゆとりができ、山をしっかり見ることができるようになる。3百名山という長い旅の中で、とても大切なことを体感した。

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