田中陽希の安全登山への道|登山道具・装備
登山に必要な道具・装備といえども、季節や天候、登る山の条件、コンディション、そして登山者本人の経験値により細分化され、自分に適した装備を的確に選択し、使い慣れるまでには時間と共に蓄積される経験値が必要となる。
しかし、誰もが必ず経験する初心者時代は右も左もわからぬまま、専門誌やインターネット、経験者からのアドバイス、さらには、登山用具専門店などでの解説などから、最初の一歩目となる装備を取りそろえていくことだろう。
*登山専門店に行くと、驚くほどの品揃えと、その種類の多さに圧倒される。トレッキングシューズ一つ手に取ってみても、右にも左にも同じようなラインナップがずらりと並んでいるのが最近では当たり前だ。
*その中から、自分の足に合った最適なシューズを見つけ出すのは至難の業だといっても過言ではない。メーカー、タイプ、値段、デザイン、好み、短時間の試着、必要最低限の情報から一足を手にするのだが、簡単なことではない。
さらに、悩ませるのが道具一つ一つの値段だ。どれも高価。購入を決断するまでに吟味を繰り返す人も少なくないだろう。
私も、学生時代はクロスカントリースキーで使用するトレーニングウエアとランニングシューズで身を包み、スポーツ店で安売りされていたバックパックを背負い、富士山などに登った経験がある。
高くて買えないレインウエアはお店の片隅にあるワゴンセールの中から、上下9800円を見つけ出し「掘り出し物だ!いい買い物をした」とひとり喜んだ。
*高価な買い物、この先数年使い続けることを考えると、失敗したくないというのが、多くの人の本音だろう。
*しかし、それでも登山を行う上で、必須となる道具が必ずある。例えばバックパック。
これもトレッキングシューズと同様に、種類は豊富にあり、シューズの次に悩み多き道具となる。各メーカーにこだわりのポイントがあり、形状一つでも千差万別だ。そして、毎年リニューアルされ、前年購入して、使ってみると改良の余地がありそうな部分が、翌年に修正され、「一年待っておけば・・・」と後悔した経験者もいることと思う。
*私の場合は、新しいバックパックを使う際に、使いながら、自分用にセルフカスタマイズしていく、携帯用の小さなはさみと化繊糸と針、そしてライターを使って、不要なところや改善箇所を切ったり、縫ったりするのだ。必ずといっていいほどすぐに改良するのが、ヒップハーネスの調節ベルト。各メーカー、使用者の体型対応範囲を広くするために、長めに作られている。細身の方だと、大半が必要のない長さとなり、それをそのままにしておくと、大相撲の関取の前褌のように、ぶらぶらと垂れ下げておくだけとなる。歩行の際、常に足に当たり、妨げにもなる。さらにこれが雨に濡れれば、より重みも増す。
*登山において大切にしていることは、「無駄をなくすこと」経験を積み重ねていくと、自ずと道具一つ一つが定着し、安定感が出てくる。この余ったベルト部分も同じこと、見た目以上に煩わしさや脱着時の毎回の収納による手数の多さなどが、些細なストレスにつながる。山に集中し、楽しむためにも、登山前に道具のカスタマイズや補修などは習慣化し済ませておくことが大切だろう。ちなみに、私の場合でも、引きしろ10センチ(握りこぶし一個分)ほどを残して、片方で20センチほど切断している。ほかにも、細かなストラップ一つ一つ、細引き一本一本、丁寧に確認し、カスタマイズの有無を判断している。ただし、カスタマイズのしすぎによる強度の低下は、気をつけなくてはいけない。使用する道具のカスタマイズなどは、アドベンチャーレースやグレートトラバースの挑戦では日常的なことでもある。
*一般的なスポーツの道具と大きく違うのは、一回の着用時間ではないだろうか。登山の道具は、日帰りでも5~6時間は着用し続ける。それが縦走など、2日以上の登山となれば、それ以上となる。
*また、人工的なフィールドではなく、自然の中をいく登山は環境の変化が激しく、標高によっては、麓が30度で山頂が一桁の気温ということもよくある。登山者自身の体への負担も大きいが、同時に道具一つ一つにも、紫外線、濡れ、擦れ、汚れなどによるダメージがある。道具も自身の体と同じように、使った後には手入れをする必要があるのだ。
*登山に限ったことではないが、「道具は体の一部だと思って扱いなさい」と耳にしたことがあるだろう。言い換えれば道具を生かせるか否かは自分次第ということだ。
*道具それぞれを選ぶ際、見た目のかっこよさに流されがちだが、登山において道具は自分の命に直結するものでもある。たとえ高価であっても、軽量ではなくとも手にしておかなければならない道具は必ずあるということを、長く山と向き合う挑戦を続けていく中で自然が教えてくれたのだ。