雲から山の天気を学ぼう|(67)積雪ナンバー1は酸ヶ湯ではない!?
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番外編 積雪ナンバー1は酸ヶ湯ではない!?
今冬は、北極からの寒気がたびたび日本列島に南下し、12~2月の3ヵ月間では北海道と南西諸島を除いて平年を気温が下回り、2017/18シーズン以来の寒冬になりそうな感じである(2月25日現在)。特に1~2月は北海道東部と南西諸島を除いて、厳しい冷え込みになった所が多かった。
また、今冬の特徴としては、近年降雪が少ない傾向が続いた脊梁山脈付近の山沿いで大雪となったことである。多くの地点では2014/15年以来の大雪や降雪となったが、新潟県の津南町や北海道の胆振・石狩地方など一部では観測史上最高の積雪となった所もあった(ただし、新潟県津南町では暖冬少雪が多くなった1990年以降の記録で1981年1月には495cmという記録もある)。
図1 最深積雪の記録を更新した地点(2022年2月24日)
ところで、テレビのニュースやネットなどで積雪NO.1は酸ヶ湯(青森県、標高890m)という報道がされます。確かに気象庁が観測しているアメダスが設置されている地点では酸ヶ湯がNO.1になることが多いですが、都道府県や国土交通省など他が観測しているデータでは酸ヶ湯よりずっと積雪が多い所があります。今年2月24日までの最深積雪は、酸ヶ湯が439cm(2月7日)であるのに対し、防災科学技術研究所雪氷防災研究センターや新潟県の観測では、火打1号ダム(標高800m)と奥只見丸山(標高1,200m)で600cmを超えており、スキー場の観測でもロッテアライリゾートやシャルマン火打、天神平などで600cmに達するなど、新潟県上・中越の山沿いと上越国境でもっとも積雪が深くなっています。酸ヶ湯より標高の低い銀山平(新潟県、標高769m)で2月24日に592cmを観測し、前述の通り、標高800mの火打1号ダムで600cmを超えるなど、標高が酸ヶ湯と同じ、あるいはそれより低い場所でも酸ヶ湯より1m以上も積雪が深くなっているのです。
積雪深は、観測する場所によって大きく異なります。特に地形の影響を受ける山岳地ではそれが顕著で、風の強い場所は雪があまり積もらず、風下側の斜面や谷筋など、飛雪によって雪が吹き溜まる所では積雪深が多くなります。そのため、平均的な雪の積もり方
をする場所を選ぶことが大切です。積雪の世界記録とされている伊吹山の1,182cmという記録もそういう意味で平均的な積雪だったのか疑問に思っています。例えば、北アルプスの立山連峰などでは吹き溜まりでは20メートルを超える積雪が積もることも珍しくありません。また、現在では超音波を使った積雪深計が主流ですが、当時は雪尺と呼ばれる計測用の棒を継ぎ足して計測したことから、計測方法にも疑問が残ります。
そこで、同じような条件の場所ごとに、今冬もっとも積雪が深くなった地点が多い2月24日の日最深積雪の1~5位(一部1~3位)をまとめてみました。
2月24日
温泉地など人が常住していない場所を含む
1.火打1号ダム(新潟)618cm(標高800m)前回2位
2.奥只見丸山(新潟)607cm(標高1200m)前回1位
3.銀山平(新潟) 592cm(標高769m)前回4位
4.六十里(新潟) 544cm(標高860m)前回3位
5.千石前進基地(富山)541cm(標高1310m)
※立山カルデラ博物館で観測している室堂(富山県)の観測を除く
スキー場
1.ロッテアライリゾート(新潟) 683cm.
2.シャルマン火打(新潟)600cm.
3.谷川岳天神平(群馬)600cm.
4.キューピットバレイ(新潟) 570cm.
5.関温泉(新潟) 550cm
集落がある場所
1.清水(新潟) 469cm 前回1位
2.上蝦池(新潟) 466cm 前回2位
3.栃尾又(新潟) 432cm
4.上筒方(新潟) 426cm
5.小栗山(新潟) 424cm 前回3位
※日本一の雪国宣言をしている西川町志津では336cm(防災科学技術研究所雪氷防災研究センターの観測)
市町村(平成の大合併前)の中心地
1.松之山(新潟)405cm 前回2位
2.入広瀬(新潟)372cm 前回3位
3.津南(新潟)350cm 前回1位(下記アメダスの観測地点は津南町の山沿い)
アメダスの観測(2月23~24日の最深積雪)
1.酸ヶ湯(青森) 436cm
2.津南(新潟) 419cm
3.守門(新潟) 329cm
4.肘折(山形) 328cm
5.只見(福島) 321cm
6.湯沢(新潟) 315cm
7.関山(新潟) 311cm
8.大井沢(山形) 309cm
9.桧枝岐(福島) 303cm
10.野沢温泉(長野) 298cm
このように見てみると、観測地点があるところでは、新潟県の上・中越地方の積雪が多いことが分かります。これは日本海側で積雪が多くなる年の特徴とも言えます。日本海側の積雪は、冬型の気圧配置に伴って日本海で発生する雪雲によるもので、北西の季節風が強いときは、雪雲が風によって脊梁山脈に運ばれ、山岳で強制的に上昇させられて山沿いで雪雲が発達し、大雪をもたらします(図1)。山沿いで降雪が多くなるので、“山雪型”と呼ばれます。逆に、冬型が弱まり、雪雲が沿岸部に停滞するときは、沿岸部や平野部で雪が多くなる“里雪型”になります。いずれも上層の寒気が強いと、大気が不安定になり、雲が“やる気”を出して積乱雲が発達していくので、大雪のリスクが高まります。
図1 日本海で雪雲(筋状の雲)が発生する様子(山岳気象大全より)
新潟県上・中越地方からで大雪になりやすいのは、越後山脈の向きが北東から南西方向に走っているため、北西の季節風が吹くときに山脈に直交した形となり、山の風上側全体で上昇気流が強まることと、佐渡島を回り込む風と能登半島を回り込む風が衝突し、上昇気流が強まりやすいこと、中国大陸から日本列島までの距離が長く、日本海を吹く北西の季節風の距離が長く、その分、水蒸気の補給を受けられることなどがあります。同じく北陸三県や山形県でも新潟県に次いで積雪、降雪が多くなるのもこの理由からです。
画像1 冬型の気圧配置の際に、日本海で発生する筋状の雲(気象庁提供)
近年は地球温暖化の影響もあって、西日本の日本海側や北陸地方の平地など真冬の平均気温が2℃を上回る所では雪ではなく、雨が降ることが多くなり、積雪深や降雪量は減少傾向にあります。また、冬型の気圧配置になっても昨冬のように、日本海に低気圧や谷が発生して里雪型になり、上越市で24年ぶりに250cmを超える積雪を観測するなど、沿岸部で大雪になるものの山沿いでは降雪、積雪量が少なかったり、2019/20シーズンや2020/21シーズンのように冬型の気圧配置が続かず、日本海側全体で降雪量、積雪量が極端に少なくなるシーズンが多くなってきています。日本海側で降雪量が少ないシーズンでは北陸地方や新潟県よりも、より気温が低い北海道や東北北部で積雪深が多くなり、酸ヶ湯が新潟県の積雪深を凌ぐこともあります。
今年のように、降るべきところで降るというシーズンは久しぶりになります。昭和世代の著者にとっては、昔懐かしい積雪分布をした年になったので、敢えて書かせていただきました。
文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。