田中陽希の安全登山への道|確認不足

  1. ホーム
  2. > 自救力
  3. > 田中陽希の安全登山への道 ~ヒヤリハットに学んだこと~
  4. > 田中陽希の安全登山への道|確認不足

自然は刻一刻と表情を変え、知らず知らずの内に状況が変わっていく。時にゆっくり、時には瞬く間にだ。その変化は山でこそ顕著に起こり、「一度登ったことがあるから大丈夫」「登る人がたくさんいるから大丈夫」という過信は通用しない。
日本は地殻変動の多い島国であり、四季それぞれの気象にも災害になりうる変動がある。前年はなんの支障もなかった平和な山が一夜にして一変し、その後、数年も数十年も登ることができない状況になることは日常茶飯事といってもいいほどだ。だからこそどんな山でも、登山前に入念な情報収集と確認が必要になってくる。それが自身の生活圏から遠く離れた場所なら、なおのことだ。
情報収集の方法として一般的なのは、目的地の管轄となる自治体や警察、環境省の出先機関などに問い合わせをして最新の情報を確認する。当然ながら土日祝日はお休みとなるため、日にちにゆとりをもっての確認が望ましい。しかしほとんどの場合は、週末の休日を利用した登山になるだろう。天気予報によっては、急な転身(山域や山を変える)で計画と違う山に登ることも多いだろうと思われる。
僕にも確認不足による行き詰まりの経験談があるのでご紹介したい。それは、2014年の『日本百名山ひと筆書き』の挑戦で登った雨飾山(あまかざりやま)のことだった。

当時、長野県小谷村の姫川温泉から長い林道を経由し、大綱登山口から雨飾山を登る計画を立てていた。しかし、直前まで北アルプス後立山連峰を縦走中だったことや、蓮華温泉から姫川温泉へ下山した日が週末の休日だったこともあり、雨飾山の登山道情報をしっかり確認をすることができなかった。
僕は、その時使っていた山と高原地図の情報だけを頼りに、早朝に出発。大綱登山口へ続く林道入り口まで来てみると、大きな通行止めの看板があった。当然先に進むことはできない。まさに立ちすくむ状態になってしまった。
この通行止めは、車両に対してなのか? それとも登山者も含む通行すべてに対しての通行止めなのか? その情報さえも得ることができず、その場で問い合わせようにも、早朝だったために役場への確認ができない状況になってしまった。
その場で考えられる選択肢はあまりない。引き返して違う登山口から登るか、車両のみ通行止めだと判断して先へ進むのかだ。
悩みに悩んだ。結局、地図の情報を信じてゲートを通過し、大綱登山口から雨飾山に登った。たしか、林道崩落による工事中だったと記憶している。
後日、管轄の役場に問い合わせを行い、自己判断で通行したことと、問い合わせが事前にできなかったことを伝えた。結果的には、電話で対応してくださった担当者から「徒歩での通行は認めている」と確認することができた。正直「ホッとした」という気持ちになったが、反省すべきことが多すぎて、「徒歩での通行も認めていない」という返答じゃなかったことに心底安心したものだ。
それでも登山中は通行止めの事が気になってしまい、せっかくの登山を楽しむことができなかった。結果的に些細な事で済んだが、山でのトラブルはこのような心の変化からもさまざまな影響を及ぼしかねない。また、山では「通行止め」「通行禁止」等の看板をよく目にする。その先にどんな危険があるのかを事前に確認せず、「自己責任」だからと立ち入り、事故や遭難してしまった場合、「自己責任」では済まされないのだ。この時から僕は、事前の問い合わせは怠らないようにと肝に命じるようになった。

当時は、携帯電話の電波エリアが現在ほど広がっておらず、インターネットによる登山情報の収集はまだ主流ではなかったので、直接電話での問い合わせがほとんどだった。それが最近では、SNSや登山記録アプリからも最新情報が入手できる。それらの情報を頼りに登山を計画する人も多くいるだろう。僕も3百名山の挑戦では、登山者が少ない山域や冬季などで大いに活用した。しかし心のどこかには、顔も知らない個人の記録を信じていいのか? という気持ちもある。個人の記録は主観的な部分が多く、必ずしも自分の山行にマッチするとは限らないからだ。ただ、そのリスクがあることを念頭に活用すれば、有意義な情報元であることは間違いない。少ない情報でも事前に確認さえできれば、それだけリスクを減らすことができるからだ。

百名山から3百名山まで、長い間山と向き合ってきた。その経験からたくさんの「ヒヤリハット」があった。今思い返すと、「もっとうまくできた」と感じることも多いが、現場ではそう簡単に物事が運ばないことも理解している。そんな経験から導き出した僕なりのリスクマネージメントを少しずつご紹介していきたい。ただこれは、僕自身の経験や知識であって、誰でもどこでも通用する正解ではないことを付け加えておきたい。自然と向き合うためには、自然の変化を敏感に感じ取れる「余裕」と「疑う心」を常に持ちながら、いつでも引き返せるゆとりを得たいものである。

アドベンチャーレーサー 田中陽希

2015年日本2百名山ひと筆書き中の櫛形山への林道入り口にて「通行禁止」の看板

2019年日本3百名山ひと筆書き、箱根山大涌谷入口にて「入山禁止」のゲート

2018年日本3百名山ひと筆書き、阿蘇山にて規制レベルが高く、「全面規制の赤ランプ」

その他の記事一覧はコチラ

  • jRO入会お申込みはこちら
  • ココヘリ入会お申込みはこちら
  • jRO会員ログイン
  • 好きな山の絵を額縁つきですぐに買える!山の絵つなぐサイト by jRO
  • ネットショップ エマグストレージ
  • 会員特典

田中陽希と学ぶ jROの山岳遭難対策制度