雲から山の天気を学ぼう|(73)湿った空気 VS 乾いた空気

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これから秋雨のシーズンとなりますが、この季節は、梅雨と同じような気象現象が現れることがあるので、今回は、梅雨のときに見られた天気についてご紹介します。
梅雨明け前の上信国境の山から見られた、湿った空気と乾いた空気の闘いについてです。この日は、明け方まで雨が降っていましたが、朝には止み、上空は層積雲(そうせきうん、別名うね雲)に覆われていました。そして、千曲川に沿うように層雲が広がっていました。
写真1 層積雲に覆われる安藤百福センター(長野県小諸市上空)と千曲川沿いの層雲(そううん、別名きり雲)

図1 当日朝の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

この日の朝の天気図を見ると、梅雨前線は、東海地方から朝鮮半島にかけて天気図上から消えており、活動が弱まっています。オホーツク海には、冷たく湿った空気を持つオホーツク海高気圧があり、日本の南東海上には太平洋高気圧があって、勢力を南西諸島方面に広げています。

オホーツク海高気圧からの冷たく湿った空気が流れ込み、関東地方では層積雲に覆われています(図2)。湿った空気が強かった朝のうちは、碓氷峠など標高の低い所を雲が越えて、西側に流れ込んでいました。それが写真1で見られる、千曲川上空の層雲(きり雲)です。一方、湿った空気が届かない画像左端には空の明るい部分があり、この辺り(長野盆地の方角)では晴れています(写真1)。また、層積雲は雲の高さが低いので、富士山の周辺に穴が開いたように晴天域があり、中腹以上で晴れていることが分かります。

図2 当日午前8時55分の可視画像(ひまわりリアルタイムwebより)

日中は次第に湿った空気の流れ込みが弱まり、午前9時前になると、安藤百福センター付近では青空が広がってきました(図2)。これは、関東山地で湿った空気が食い止められることと、碓氷峠や関東山地を越えると下降気流になって雲が蒸発していくためです。

図3 安藤百福センター、篭ノ登山周辺の概念図(国土地理院の地理院地図に猪熊が加筆)

図4 当日正午の地上天気図(気象庁提供のものに猪熊が作図)

図4は、正午の天気図ですが、等圧線が込んでいる所が篭ノ登山付近(△印)にかかってきています。このエリアは地上付近で南西風が吹く所で、上空では西寄り風になっています。このエリアでは、西から乾いた空気が入ってきて天候が回復することが予想されました。一方、等圧線の間隔が広い関東地方では北東からの湿った空気の影響で曇天のエリアになっています。このせめぎ合いで、篭ノ登山付近で湿った空気と乾いた空気が闘っている状態でした。乾いた空気が増したり、湿った空気が入りにくい所に来ると、上空に青空が広がります。

写真2 東篭ノ登山上空に青空が広がる

一方、湿った空気が優勢になった時間帯や、湿った空気が入りやすい水ノ塔山に行くと霧に覆われました。
さて、午後になると、予想通り、等圧線が込んでいる部分に入ってきたため、乾いた空気が優勢になり、篭ノ登山付近では視界が開けて関東側からの湿った空気と、信州側の乾いた空気との闘いを山上から見下ろすことができました。まさに高みの見物ですね!

写真3 三方ヶ峰から湿った空気と乾いた空気の闘いを見下ろす

赤い破線の部分が関東平野から入ってきた湿った空気による層積雲です。雲のてっぺんが平らになっているのは、ここを境にして下に冷たい空気、上に温かい空気があり、空気中に敷居のようなものができるからです。この敷居を越えて雲は上方へ成長することができず、敷居の下で水平に広がっていきます。このような状態の空気は非常に安定していて、雲はやる気を出して上方へ成長できず、赤い破線があるエリアの上方には入道雲などのやる気がある雲は見られません(紺色の破線部分)。
雲の敷居については、下記ブログもご参考に。

猪熊隆之の観天望気175回


また、赤い破線の右側(西側)のあたりには関東山地から佐久平に下る斜面があり、山を越えた雲はここで下降して蒸発して消えています。一部、湿った空気の通り道にあたる所では雲が残っていますが、キレギレになって弱まっています(緑色の破線部分)。
雲のないエリアでは、日射によって地面付近の気温が上昇し、上空との温度差が大きくなって雲がやる気を出していきます。写真の上方に見られる積雲(せきうん、別名わた雲)も斜面で温められた空気が上昇してできた雲です。

写真4 池ノ平の東側でやる気を出し始めた雲

写真5 雲粒が成長して垂れ下がった様子

さらに雲が厚みを増したり、密集すると、雲粒同士が合体してどんどん大きくなり、上昇気流に逆らって落下していきます。雲の底から垂れ下がったように見える部分が落下している雲粒や雨滴を表していいて、尾流雲(びりゅううん)と呼びますが、地面に到達せずに消えていることから、雲粒や雨滴は途中で下降しながら蒸発していることが分かります。この雲粒がもっと成長して、地上に到達すると雨が降ります。今回は、上空の寒気がそこまで強くなく、雲のやる気もこれが限界でしたので、にわか雨に降られずに済みましたが、写真5のように雲底が真っ暗で、雲の上がソフトクリームのようにモコモコとやる気を出していったときは要注意です。落雷や強雨の可能性がありますので、危険な場所から離れるようにしましょう。

登山中に落雷や強雨に襲われたときに、身を守る方法については以下のバックナンバーをご参考に。

https://sangakujro.com/category/inokuma/page/3/

落雷や強雨を予想しようⅠ~Ⅱ(38~39回)

落雷、局地豪雨を予想しよう(上級編)partⅠ~Ⅱ(40~41回)

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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ヤマテンでは、「山の天気予報」というサイトで、全国330山の山頂予報を配信しているほか、主要な18山域では、具体的な気象リスクについての警戒事項、詳細な解説付の予報を発表しています。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定しているほか、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録、通信環境が制限される登山中にストレスなく使用できる登山モードを設定するなど、登山者視点の気象情報を提供しています。。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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