雲から山の天気を学ぼう(第17回)
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南岸低気圧接近でも天気崩れず
あ今回は、南岸低気圧が接近したにも関わらず、天気が崩れなかったときの雲の変化を見ていきます。南岸低気圧が接近するときの雲変化は第7回で学んだように、
①巻雲(けんうん)→②巻層雲(けんそううん)、または③巻積雲(けんせきうん)→④高層雲(こうそううん)→⑤乱層雲(らんそううん)
となります。今回も、①巻雲が現れました。
形状的には直接状で晴れ巻雲といった感じ(第6回参照)ですが、晴れ巻雲でも天気が崩れるときがあります。そこで、その後の雲の変化に注目しましょう。
写真の下の方には、薄い雲が一面に広がっています。これは巻層雲です。その上側には巻層雲が幾筋にもなっています。これは波状雲と呼ばれ、空気が波打っているときに発生する雲です。四国の南海上の低気圧から伝わってきているものと思われます。これが西の空から広がっていくときは、天気が崩れることが多いのですが、今回は南の空に広がり、それが徐々に近づいてくる感じでした。
写真③ 乗鞍高原から中央アルプス(南東~南方向)を見る。
さらに、時間が経つと、中央アルプス方面の巻層雲の下に高積雲が混じるようになりました。また、巻層雲が徐々に北側に広がってきています。低気圧が西から近づいているのではなく、南の方にあることを物語っています。
あさらに時間が経つと、南側にあった巻層雲が接近して上空を覆うようになり、南の空には巻層雲より高度の低い、高層雲が広がってきました。こうなると、この後、高層雲が上空を覆い、乱層雲に変わってくると雨が降りだすと思う方が多いと思います。今回はそうはなりませんでした。それはなぜでしょう。
あ最大の理由は、四国沖の低気圧が北上することなく、日本の南海上を離れて通過したためです。従って、南の空ほど雲が厚く、北ほど晴れていました。また、西の空から雲が広がってくることはありませんでした。このときの天気図を見てみましょう。
あ四国沖に低気圧があり、東へ進んでいます。低気圧から温暖前線が延びていますが、天気が崩れるときは、前線の位置は赤い破線のように、もう少し北側に延びます。今回は南へ垂れ下がるような位置にあるため、温暖前線に伴う雲が北に広がらなかったと思われます。
あまた、低気圧の動きも北寄りに進むのではなく、むしろ南に下がり気味に進んでいきました。これは上空の風の流れが西から東方向へ吹いていたためです。下図を見ると、四国付近から南へ延びる上層の気圧の谷があり、そのすぐ東側に地上の低気圧があります。そして、その辺りは等高度線が東西に寝ており、上空の風向は等高度線に平行に吹くことから、低気圧付近では西風が吹いていると思われます。低気圧はこの風に流されて東へ進んだ訳です。
あこのようなとき、目的の山が低気圧から離れているほど天気の崩れが小さくなります。今回の乗鞍岳でも、低気圧から離れていたため、巻雲→巻層雲→高層雲という雲の変化が西の空からやってくるのではなく、南側から徐々に北上していく形でした。梅雨前線や秋雨前線が北上してくるときには、このようにして天気が崩れることがありますが、南岸低気圧の場合は、高層雲が広がってもそれ以上崩れることがないことが多いです。南岸低気圧が接近しても、天気が崩れないケースがあることを、雲の状況や天気図から知っておくと、動ける日が多くなると思います。
※地上天気図は気象庁提供
※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。
文責:猪熊隆之
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猪熊隆之(いのくまたかゆき)
国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。