田中陽希の安全登山への道|転ばぬ先のはずのトレッキングポール

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いつの頃からか、登山で必ずと言ってもいいほど見かけるようになった「トレッキングポール」。長さ・重さ・材質・形状によって、登山者の用途に合わせて今では幅広く展開されている。登山専門店ではトレッキングポール専用の販売コーナーができるほどだ。
これまでの挑戦で、季節を問わず常に携帯して使い続けた道具の一つがトレッキングポール。体の一部くらいまでに使いこなせるようになるには多くの時間が必要だ。使いこなせるようになったといって油断してはいけない。どんなに便利な道具でも使い手次第。これは長年使い慣れたトレッキングポールでの失敗談だ。

2019年8月南アルプス赤石岳

20年前はマイナー装備

本と音楽とスポーツの町「御茶ノ水」の大学に通っていたのは20年程前。勉強に必要な本屋には脇目も振らず、授業の合間にスポーツ店をはしごすることが楽しかった。大学卒業後にアドベンチャーレースの世界に飛び込んでからも、当時住んでいた群馬から御茶ノ水の登山専門店に足を運んでいた。その頃、トレッキングポールは今ほど充実していなく、探しに求める登山者も少なかったように思う。

2020年8月東北岩手県五葉山

しばらくして「富士山」「屋久島」「山ガール」で登山が賑わうと、トレッキングポールを多くの人が使うようになった。さらに、トレイルランニングにも注目が集まってトレイルランナーが増えていくと、新しい素材としてより軽いカーボン製のトレッキングポールがラインナップに加わっていった。僕にとってカーボンは馴染みのある素材だった。学生時代に励んでいたクロスカントリースキーの世界ではカーボン製のスキーストックが主流だったので、そのデメリットも理解していた。

カーボン製は超軽量だが、耐久性は低くて横からの力に極めて弱い。アルミ製とは比べものにならないほど取り扱いには注意が必要なのだ。万が一折れてしまったら、高価なためにそのショックは計り知れない。しかし、カーボン製トレッキングポールを手にしている登山者も多くいる。ファストパックやウルトラライトが浸透し、軽量化を最優先にしているからだ。一時期の僕もそうだった。

2020年11月暑寒別岳

アドベンチャーレースやグレートトラバースの挑戦中でもカーボン製トレッキングポールを使っていたが、転倒したり過度な負荷をかけてしまったりしたことで破損が相次いだ。どんなに軽量でもレース中や縦走中に折れてしまっては、ただのお荷物になってしまう。その経験から、たとえ重量が少し増えたとしても、強度が高くて折れにくいアルミ製トレッキングポールを使うようになった。多くの無雪期の山でアルミ製トレッキングポールに大きい負荷をかけてきたが、並大抵のことではびくともしなく安心して使えた。

どんな道具も使い方次第

少し前までトレッキングポールのことは「山を歩きなれていない登山者が使うサポート道具」と認識していた。今では膝の負担や転倒リスクも軽減できる装備として多くの登山者が使っている。

道具を手に入れただけでは有効に機能しない。使い方の知識をもって、使い慣れることで本当の効果を発揮できると考えている。その道具を目視しなくとも感覚で操作できるようになるまで繰り返し使ってから初めて手になじみ、道具の本質を理解できるようになるのだ。

2021年6月雌阿寒岳

クロスカントリースキー選手時代、夏場はストック(トレッキングポール)を持ちながら陸上トレーニングをしてきた。長年のトレーニングで使い慣れていたからこそ、今ではトレッキングポールの効果を山でもしっかり実感できている。

道具を体の一部までにするためには、多くの時間と労力、そして何千何万の反復が必要である。どんなに魅力的な道具であっても、使う人次第で効果は大きく変わってしまうからだ。これまでの挑戦のなかで、多くの道具に触れて、実践の中でも使ってきた。その中でも季節を問わず常に携帯して、使い続けてきた道具の一つがトレッキングポールだ。

使い慣れても油断は禁物

日本3百名山に挑戦中の2018年8月、55座目である滋賀県の蓬莱山(ほうらいさん)を登ったときのことだ。極上の稜線歩きと、たくさんの鹿が迎えてくれたこともあって、晴れやかな気持ちで山頂に立った。

アクシデントは下山で起きた。下山し始めると頭上に大きな雨雲が立ち込めてきて、あっという間に土砂降りに。30分ほどで雨はやんだものの、滑りやすくなった足元に備えてトレッキングポールを手にしていた。斜めになっている大きな岩に足をかけた直後だった。足を滑らせてしまって、咄嗟に出した右手にビビッと痛みが走った。右手の親指と人差し指で2本のトレッキングポールを束ね持っていて、残り3本の指で体を支えたためだ。大きな負担がかかった薬指の骨は折れていた。「両手で正しく持ってトレッキングポールを使っていたら」「使わないならトレッキングポールをバックパックにしまっていたら」と、このときは自分の行動と判断を何度も後悔した。

どんなに助けになる道具でも適材適所がある。役立つ場面で持っているのに面倒がって使わなかったり、使わないのにただ持っていたりすると、自分の身を危険にさらしてしまうこともある。様々な自然環境の中をいく登山ではなおさらだ。蓬莱山ではまさに身をもって学ぶことになった。道具には責任はない。使う側にすべてが委ねられ、助けになるのも力になるのも自分次第ということを知った。

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田中陽希と学ぶ jROの山岳遭難対策制度