雲から山の天気を学ぼう|(66)厳冬の利尻で見られた雲PartⅠ ~低気圧の眼~

  1. ホーム
  2. > 自救力
  3. > 猪熊隆之の雲から山の天気を学ぼう
  4. > 雲から山の天気を学ぼう|(66)厳冬の利尻で見られた雲PartⅠ ~低気圧の眼~

厳冬の利尻で見られた雲PartⅠ ~低気圧の眼~

12月中旬から1月初めに利尻島に滞在していました。意外なことに(?)、利尻島に行くのは初めてでした。それも2週間という長期間、島に滞在できる機会が来るとは!
厳冬期の利尻島といえば、どういうイメージを思い浮かべるでしょうか?暗灰色の雲、荒れた海、白一色の世界・・・。私はそんな印象を持っていました。天気に関しても冬型の気圧配置が続いて、毎日厚い雲に覆われて吹雪になったり、少し晴れ間が出たりといった、故郷の新潟のような天気を想像していましたが、30~40年前の冬の新潟の天気そのものでした。雪は新潟よりサラサラでしたが。
ただし、冬型の気圧配置といっても同じような天気がずっと続くのではなく、日によって変化があり、風がある日とない日、大雪が降る日と降らない日、晴れ間が出る日と出ない日、など一日として同じ天気はありません。雲も変化が激しく、雲が語ってくれる空の気持ちを理解するのに、頭をフル回転し続けてました(笑)。
その中で特に興味深かったのが、“低気圧の眼”に覆われたときの天気です。台風の眼は聞いたことあるけど、“低気圧の眼”なんて聞いたことないぞ、と思われることでしょう。低気圧も種類によっては、眼が出来ることがあります。

Ⅰ.台風の眼

台風や低気圧の周辺には発達した雲があるのが普通ですが、その中で中心付近だけポッカリと雲のないエリアができることがあります。この晴天域のことを台風や低気圧の眼と呼びます。さて、台風の眼は強い勢力を持つものにしかできません。台風が勢力を増していくと遠心力が強くなり、中心付近に吹きこめなくなった風が中心の外側で上昇させられて眼の壁(アイウォール)と呼ばれる発達した積乱雲群が形成されます。そこが台風周辺でもっとも激しい暴風雨になる所ですが、その内側(中心付近)は、上昇流を補うための下降流場になっています(図1)。空気は下降すると温められるので、雲は蒸発して消えていき、晴天域になるのです。

図1 台風の眼ができる仕組み(「山岳気象大全」山と溪谷社より)

Ⅱ.低気圧の眼

一方、低気圧の眼ができる仕組みは次の3つのパターンに分かれます。

  1. 発達した低気圧で台風と同じ理由で眼ができる場合
  2. 発達した低気圧、あるいは閉塞期(最盛期に達した後)の低気圧で乾燥域が中心付近に入り込むもの
  3. 上空に寒気を伴う小さな低気圧で、中心付近が下降流域になり、眼ができる場合

今回、利尻で見られた低気圧の眼は3に該当します。眼が現れたのは3回で、眼が大きかったとき(2021年12月21日)と小さかったとき(2021年12月22日)に分かれます。それぞれどのような天気になったのかを見ていきましょう。

1. 眼が大きかったとき
14日間のうち、利尻山が見えたのはわずか3回。そのうちもっとも長い2時間程度、利尻山が見えたのは眼が大きかったときです。

写真1 奇跡的に青空が広がり、利尻山が姿を現す

このとき見た利尻山は、荘厳なまでに気高く、近づきがたい美しさで屹立していました。撮影場所は、夏は観光地として賑わうオタトマリ沼。この時期は、道が除雪されておらず、訪れるものといったらカラスと私たちだけ(笑)。
なぜ、眼が大きいと晴天の時間が長くなるのでしょうか。その理由を雨雲レーダーから見てみましょう。

図2 低気圧の眼周辺の降水強度

このときの雪雲の様子をLFM(局地モデル)の降水強度で見てみましょう。色が水色→青→黄緑→黄色となるにつれて雪が強く降っていることを示しています。低気圧の中心付近が眼で雪が降っていないエリアが広がっています。それを取り囲むように雪雲が連なっていて、この下では雪となっています。眼が大きい程、雪が降らないエリアが広くなるので晴天が長続きするのです。

写真2 眼の周囲の雲

東の方向を見ると雲がやる気を出していました。いわゆる積乱雲(せきらんうん、別名雷雲)が晴天域を囲むように連なっています。これが先ほど述べた、低気圧の眼の外側にある降水域です。低気圧の周りは中心に向かうような風が吹いています。これは低気圧の中心と外側との気圧差によって生まれる風ですが、このタイプの低気圧は中心付近で気圧差がなくなる(図3)ので、中心に入る手前で風はそれ以上吹きこめなくなり、上昇していきます。その上昇気流が写真2の白い矢印の部分です。この上昇気流によって雲が発生し、このときのように上空に寒気が入るとやる気を出して積乱雲に成長していくのです。一方、それより内側ではこの上昇気流を補うように空気は下降していきます。下降気流により、雲は蒸発して消えていきます。そのため、低気圧の眼では雲がない晴天域になるのです。しかしながら、低気圧は動いていきますので、やがては眼の範囲から外れていくため、好天は長くは続きません。

図3 眼が大きいタイプの低気圧

眼が大きいタイプの低気圧は、低気圧を囲む等圧線の間隔が広く、低気圧の中心付近で気圧差が小さくなります。

2. 眼が小さかったとき
一方、眼が小さいときの低気圧は、中心を取り囲む等圧線の間隔が狭くなります(図4)。気圧差が小さい範囲が狭くなるので、低気圧の中心に近い所まで風が吹き込みます。そのため、下降気流となる範囲が狭くなって晴天域が小さくなるのです。

図4 眼が小さいタイプの低気圧

このときは、朝のうちの30分程だけ姿を現してくれました(写真3)。

写真3 一瞬、姿を現した利尻山

この後、ものの30分ほどで猛吹雪になりました(写真4)。

写真4 吹雪になった利尻

Ⅲ.利尻島は低気圧が生まれる場所
そもそも低気圧の眼が利尻付近で頻繁に出現するのはどうしてでしょうか?それは、利尻島が眼のできやすい低気圧が生まれる場所だからです。利尻付近には冬季、シベリアからの冷たい季節風が吹きつけます。一方、日本海に沿って暖流が流れているため、この冷たい季節風は下の方で温められて周囲に比べて気圧が低くなります。さらに、利尻島や礼文島と北海道の間を吹き抜ける風や、礼文-利尻を西側から回りこむ風などが複雑にぶつかり合って渦を形成することが多く、ここで低気圧が生まれやすいのです(図5)。

図5 利尻で低気圧が生まれやすい理由

 

 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

山の天気予報が生まれ変わります!

ヤマテンでは、近日中に「山の天気予報」をリニューアルオープンする予定です。予報対象の山を増やして欲しい」というご要望にお応えするため、予報対象数を59山から330山に拡充します。また、首都圏や関西近郊の低山など無料でご利用いただける山を設定するほか、通信環境が制限される登山中にストレスなく使用できる登山モードを設定するなど、使いやすい、見やすいページに生まれ変わります。
これまで通り、気象予報士の解説、大荒れ情報や「今週末のおすすめ山域(毎週木曜日発表)」、各種予想天気図、ライブカメラ、ヤマレコの最新記録などをご利用いただける「山の天気予報」のサービスも継続します。また、GWや海の日、お盆、年末年始など連休期間の前には5日間予報または週間予報を発表します。皆様の登山計画を立てる際や、安全登山にぜひ、お役立てください。ご登録方法やサービスの詳細につきましては https://i.yamatenki.co.jp/lp/ でご確認ください。

ヤマテン×アルパインツアー コラボレーション企画

西穂山荘に泊まって天気を学ぶ 冬の北アルプス・西穂丸山 2日間 満席(キャンセル待ち)
日程:2022年3月5日(土)~6日(日)
企画・実施:アルパインツアーサービス株式会社
集合・解散場所:JR松本駅
ツアーの詳細や申し込み方法は下記URLにてご確認ください。
http://www.alpine-tour.com/tourinfo/details.php?SrchName=%25E8%25A5%25BF%25E7%25A9%2582&keyno=3055&pv=y

また、過去における空見ハイキングの動画を以下に公開しております。
https://www.youtube.com/watch?v=IlC5F-us4qM&t

皆様と一緒に山を歩き、空見(そらみ)ができることを楽しみにしています。

ヤマテン動画講座(無料)配信中

新型コロナウィルス感染症予防のため、ヤマテンの「山の天気予報」サイトで見られる天気図の見方を動画配信しています。下記URLにてご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=VJ-MWg70LFI&list=PLMEQ1UAZdr6UQfU8W-lzlWUMc1Ajszs70

「空の百名山」を朝日新聞・長野県版などで連載中

過去の記事を下記、URLからご覧いただけます。
http://sora100.net/

 

ヤマテンオリジナルグッズの販売開始!

やまどうぐレンタル屋さんが運営するヤマトリップショップで、ヤマテンオリジナルグッズの販売を開始しました。これまでは講習会や空見登山ツアーのみでの販売でしたが、オンラインでもご購入いただけることになりました!また、茅野市内の一部カフェや、やまどうぐレンタル屋新宿店でも販売します。

ヤマトリップショップはこちら
https://yamatrip.com/shop/item/list/yamaten?fbclid=IwAR0nbpBkzRh7HMpgJp2ANv1umBDika4ZLufgEjORlMBkNaX2_nbfIYifaQY

ヤマテンポイントについて

ヤマテンの気象予報士が講師を務める講習会にご参加いただいた皆様にポイントを進呈させていただきます。
机上講座は1回参加につき1ポイント、空見ハイキングなど山での実地講座については1日につき3ポイント(旅行会社企画・実施のものも含みます)を進呈させていただきます。
特定のポイントが溜りますと、素敵なプレゼントを贈呈させていただきます。
詳細につきましては、 http://yamatenki.co.jp/point.php でご確認ください。

ヤマテン オリジナル手ぬぐい完成しました(30ポイントでプレゼント!)

雲を学べる絵葉書11枚入りセット(10ポイント溜まるとGET!)

猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

  • jRO入会お申込みはこちら
  • ココヘリ入会お申込みはこちら
  • jRO会員ログイン
  • 好きな山の絵を額縁つきですぐに買える!山の絵つなぐサイト by jRO
  • ネットショップ エマグストレージ
  • 会員特典

田中陽希と学ぶ jROの山岳遭難対策制度