救急法|高山病
ふだん標高の低い場所で生活しているわれわれが山に登ると、高度が上がって空気が薄くなることにより、摂取できる酸素が不足し、さまざまな障害が現われてくる。これが一般に高山病と呼ばれている「急性高山病」である。
もともと人間の体には高度に順応しようとする機能が備わっているが、その能力は個人差が非常に大きい。富士山に登ってもまったく平気な人もいれば、 標高2000mそこそこの山で高山病の症状が出てくる人もいる。高度順応力が高い人であっても、行程や体調などによっては高山病にかかってしまうこともあ る。
たとえば、寝不足や疲れがたまった状態では高山病に陥りやすい。いっきに高度を上げるような行程やオーバーペースも高山病の要因となる。さらに水分の補給が不足すれば、血液の循環が悪くなって体の隅々にまで酸素が行き届かなくなり、高山病を招いてしまう。
また、肥満ぎみの人は適正体重の人に比べて高山病になりやすいので、トレーニングを習慣化して体重を減らしたほうがいい。呼吸器や心臓に疾患のある 人や貧血ぎみの人も、高度に対する順応性が高くないと考えられる。加齢自体は高山病の直接的な要因とはならないが、中高年層は運動不足や肥満になりがち で、なんらかの持病を持っている人も多い。一般的に健康状態が良好だといえる中高年者は多くなく、そのことが高山病を招きやすくしているともいえるだろ う。
意外なところではアルコールと睡眠薬。これらには呼吸を抑制する作用がある。それでなくても睡眠時は呼吸が浅くなるので、「眠れないから」と寝酒を飲んだり睡眠薬を服用したりすると、寝ている間に高山病が悪化してしまうケースもある。
このように高山病を招く因子はさまざまで、山に登る人は常に高山病のリスクを抱えていると思ったほうがいい。倦怠感や虚脱感、食欲不振、吐き気、頭 痛、目まい、睡眠障害など、高山病の初期症状が現われたら、それ以上高度を上げずにしばらく様子を見よう。もし症状が悪化するようならただちに下山を。高 度を下げれば、症状はおのずと解消する。逆に無理して行動を続けると、肺に水がたまる「高地肺水腫」や、脳が腫れる「高地脳浮腫」にまで病状が進行し、命 を落としてしまうことにもなりかねない。
2005年8月には、北アルプスの蝶ヶ岳に登っていた16歳の高校生がテント内で就寝中に高山病を発症させ、ヘリコプターで病院に搬送されたが肺水腫で死亡するという事故が起こっている。けっして高山病をアマく見てはならない。
高山病の種類
状況 | 症状 | 病名 |
---|---|---|
急性高山病 | 新しい高度に到達した際に起こる | 頭痛、食欲不振、嘔き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、目まいまたは朦朧感、睡眠障害 |
高地脳浮腫 | 重症急性高山病の最終段階 | 急性高山病患者に精神状態の変化か運動失調を認める場合 |
高地肺水症 | 右症状のうちふたつの症状がある場合 | 安静時呼吸困難、咳、虚脱感、運動能力低下、胸部圧迫感、充満感 |