第31回jRO会員講演会(12月12日/土)YouTube視聴者様の質問と回答
【質問】登高スピードを高めるにはどうしたらよいですか?
【回答】ご質問につきまして。当日の講師・山岳ガイド加藤智二氏がご自身の講座資料から抜粋してお答えいたします。
*ご質問者は勉強熱心ですが、継続するには実際に体験の積み重ねをサポートする良き仲間やガイドが必要です。合わせてと納得感が必要かと思います。
一人だと結果を早く求めすぎて挫折しがちだからです。
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*脚力を向上させていく前提として、意識的なトレーニングが必要です。
*トレーニングは英語表記では、training となります。つまり、train=列車にingをつけていることから想像できるように、線路(目的)に沿って進んでいくイメージです。
*つまり、どんなトレーニングも「目標なり鍛えたい部位や登りたい山とコース」を明確にしたほうが高い効果が得られるということです。
*では、現在の自分の体力レベルと世間でいわれるようなトレーニングメニューが自分に合っているかなどははっきりいってわからないのです。
*まずは、トレーニングと意気込む前に1~10のことをしてみてはいかがでしょうか。
- 身近で繰り返し出かけられる里山で自分の「素」の体力レベルを自覚することが第一に必要です。
その山の標高差、距離、背負う荷物の重さは客観的な数字ですから変化しません。
他人に惑わされず、快適だと感じるペースで行ってください。誰に報告する必要があるわけではありませんから、自分ノートに記録しておきます。
日付、天候、気温、開始前の体調、終了後の体調や感想、直近一週間の主な運動など、自分で決めたことで構いません。 - 初回は今までの自分のやってきた方法で行ってよいと思います。時間当たりの獲得標高が200mとか250mとかがわかります。
これが質問者さんがご質問いただいた数値かもしれません。 - 登山には水分とミネラル、糖質の継続的な補給が欠かせません。
次の登山では30分に一回は水分補給、60分に一回は水分と糖質補給を必ず行って、同じ行程を登山してみてください。 - 登山終了後には、良質なたんぱく質を含んだ「魚・肉」などを夕食に摂り、早めに就寝してください。
睡眠は寝入り後の3時間に成長(痛んだ筋肉修復)ホルモンがたくさん出るタイミングなので、前半に深く寝たのであればトータル睡眠時間を長くする必要はありません。
運動+栄養+休息(睡眠)は健康な体つくりに欠かせません。
筋肉痛は細胞が破壊され、再生していくサインです。 - 歩行スピードを上げるには、ステップの上手な置き方も大きく関係します。
小まめで段差を小さくするネコ科動物的な足さばきがお勧めです。どたどた歩きは衝撃が大きく疲れやすいだけでなく、スリップや落石などを起こしやすいです。
自分のスネの長さを超えるステップで「よいっしょ」と体を持ち上げることで大きく疲労します。さっと視線を数メートル先において、次にどこに足を置いたら疲労が少ないかを見つけるのもトレーニングで向上します。上手に歩く人の後について行くとよくわかると思います。
時間当たり獲得標高は平均です。つまり、最初の元気がよいときにトントンと登っても、途中で疲労によるペースダウンをすれば平均値は低下します。 - 自分に合ったリズムとは10時間歩き続けることも可能なというイメージです。歩くリズム以上に大切なのはこまめな「立ち休憩」です。合わせて「3」の補給、衣類の調整も行うとよいです。
- 週に一回はアップダウンのある山歩きをするのが理想です。月に一回は10時間、15~20㎞といったロングをゆっくりとしたスピードで確実に歩きとおすことも有効です。
まずは、様々な登山道コンディションでも確実に歩くことができる「歩行力」向上を第一の目標とすることをお勧めします。凸凹のないアスファルトでの平地ウォーキングでは決して身につきません。脳と神経回路と身体が連動するには実際の「体験」が必要だからです。 - 歩く姿勢が良くなり、膝関節の使い方が上手くなり膝痛などもなくなれば、自然と登高スピードも向上していきます。
- 心肺能力の面からいえば、呼吸がとても大切です。
ポイントはしっかりと吐くことです。数回に一回は「誕生日のろうそくを吹き消すように」口をすぼめて細く長く息を吐いてみてください。
摂取した食べ物を確実に運動と脳にエネルギーを運び込むには十分な酸素供給、つまり上手な呼吸が大切です。 - 登山は登りだけでなく、下りが大切です。動的バランスが良くなれば登山スピードは向上します。
登山は動的バランスが重要です。平地での部分的な筋力アップ自体は否定しませんが、マッチョを目指すのではなく、動的バランス力(筋力の調和ハーモニー)が大切です。
家庭内でできる「フォワードランジ」もおすすめです。脚を前後に開いて腰を下げる下肢筋力強化や協調性トレーニングとしてよく行われます。
左右にぐらつきやすいのが特徴ですから、転倒する前に身体を支えられる机や椅子の横で行うとよいです。
*以上は加藤がお勧めすることであって、効果を保証するものではありません。
登山は生涯続けることができる健康運動です。登高スピードが登山の価値を示すものではないということを指摘させてください。
*故障や怪我の無いよう登山をお続けください。
山岳ガイド 加藤智二