日本の国立公園の山の魅力|岩手山

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岩手山2038m(十和田八幡平国立公園)

「ふるさとの山に向ひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」

石川啄木が故郷の名峰、岩手山を詠んだ歌である。およそ山に因む歌の中でも最も広く知られた一首だろう。啄木の、そして山麓一帯の人々の岩手山への想いは並々ならぬものがある。

さらに岩手山が偉大なのは、県名にまでなってしまったことが挙げられよう。山からの溶岩流地形を「岩出」と呼び、その元となる山を岩出山、訛って岩手山、やがて山麓一帯が岩手郡になり、県が出来た時に県庁所在地である盛岡の属する郡名を県名に採用したとされている(異説もある)。どっしりとした重量感あふれるシルエット、全国に名峰数多ある中で、岩手山ほど心象的シンボルとして地元の人々の心に刻み込まれた山は希少に違いない。

眺めて一流の岩手山だが、登ってみるとさらにその真価がわかる。通常は日帰りで登られることが多いが、余裕のある人は是非にも八合目の避難小屋に泊まってご来光登山を試みたい。避難小屋と言っても、造りのしっかりした立派な小屋で、地元の岩手県山岳連盟のメンバーが交代で管理している。トイレの清潔さは特筆ものだし、全体の快適さは北アルプス辺りの山小屋の平均点を上回る。自炊が必要だが、小屋前に名水がふんだんに出ているのは嬉しい。宿泊料も格安だ。

山頂で仰ぐご来光は荘厳そのもの。東方に早池峰山、北方には八幡平のたおやかな山々、西方には裏岩手の山々に岩手山自身が「影岩手」となって壮大な三角形を落とす。最後の噴火から年月が浅いため、足下から火口にかけて砂礫帯が延々と広がっているが、7月ならコマクサが類を見ない規模の大群落を成し、秋には赤やオレンジの絵の具をまき散らした様な、見事な色彩のカンバスと化す。それらが朝一番の斜光線に浮き上がる姿は「神々の風景」とでも表現するしかない。

早朝には下界を埋め尽くしていた雲海が晴れてくると、南部地方の町や田畑が北上盆地に沿って遥かに広がってくる。地元に愛され啄木が詠んだ岩手山、その偉大さを山頂ならではの角度から実感することができるだろう。

※車の場合は馬返しの駐車場から山頂を往復する。タクシーなら盛岡駅あるいは滝沢駅を起点に、馬返しから山頂へ、下山は焼走りを目指すと良い。

樋口 一郎

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