山行前のセルフレスキュー
セルフレスキューは、救助活動などの「事後処理対策」に限ったものではない。次に挙げるような「事前防止対策」も、広い意味でのセルフレスキューととらえることができる。
体力、技術を向上させる
体力があればそれだけ余裕をもって行動することができるし、疲労が招くケガの予防にもつながる。また、登山技術はもちろんのこと、セルフレスキューの技術、地形図とコンパスの使い方、気象に関する知識などもきっちり習得しておこう。
登山計画書を提出する
山登りはあくまで個人の裁量と自己責任で行なわれるものだが、万一、事故が起こったときには、少なからず社会的な対応が必要になってくる。そのとき に重要な役割を果たすのが登山計画書。とくに山岳会などに所属していない未組織登山者の場合、登山計画書がないと事故が起こったときの連絡先や足取りなど がまったくわからず、対応が遅れるばかりか助かるものも助からなくなってしまう。そこで山行前には、登る山、コース、メンバーの氏名と連絡先、おもな装備 などを明記した登山計画書を必ず作成し、家族や職場に一部ずつ渡しておこう。また、地元の警察署への提出も忘れずに。登山計画書を作成するということは、 山行の情報を明確化することにほかならない。それが最初のセルフレスキューになるものと心得ていただきたい。
山岳保険に加入する
今日の山岳遭難救助はヘリコプターを中心に展開されることが多いが、民間のヘリコプターが出動した場合は当然、救助費用がかかってくる。ヘリコプ ターだけでなく民間の救助隊員が出ていれば、さらに人数と日数に応じた費用が請求される。そのトータルは、救助にどれくらいの時間を要したかによるが、少 なくとも50~60万円、捜索をともなう救助では数百万円にものぼることもある。それを個人で負担するのはかなり大変なことだが、山岳保険に加入していれ ば、保険金がおりることになる。現在、複数の保険会社や山岳関連団体がいろいろなタイプの山岳保険を商品化しているので、自分の山行形態に合ったものを選 択して加入しよう。なお、ヘリコプターを要請するときは、山岳保険に未加入であると、誰が費用を支払うのかを確認してからでないと出動してもらえない。逆 に、保険に加入していることがわかればすぐに手配してくれる。それが現実である。
救急法の知識を身につける
山では、ケガをしたり病気になったりしても、すぐに病院で治療してもらうというわけにはいかない。そこで登山者自身が救急法の知識と技術を身につ け、実際の山行には自らファーストエイドキットを携行する必要がある。と同時に、搬送法のノウハウもしっかり学んでおきたい。いい加減な手当てをした揚げ 句、事故者が痛がろうが悲鳴を上げようが強引に運ぶというひと昔前のようなやり方は、セルフレスキューの考え方から大きくはずれている。事故者に後遺症を 残さず、早い社会復帰を実現させるためには、正しい救急法と搬送法を行なわなければならないのである。
通信手段を確保する
近年の救助要請は携帯電話を通して行なわれることが多いが、前述したように山では携帯電話がつながりにくい。いざというときにつながらなければ、 持っていないことと同じである。その点、いつでもどこでもほぼ通信可能なのが無線機。アマチュア無線の資格を取得しなければ使うことはできないが、それだ けの手間ひまをかける価値は充分にある。迅速な救助要請を行なうために、無線機の携帯をぜひおすすめしたい。
非常用装備を持つ
いざという場合にあると役に立つ非常用装備(ライター、マッチ、固形燃料、ろうそく、レスキューシート、細引き、多目的ナイフなど)は、コンパクト にまとめてパッキングしよう。そのほかツエルトも必携。個人で持つもの、共同装備とするものは山行携帯によって異なってくるので、事前にパーティのメン バーで話し合って決めておく。