羽根田治の安全登山通信|山での携帯電話の使い方を考える

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巷ではツイッターやFacebookが流行っていて、友人知人か らも「やればいいのに」と勧められるが、今のところ二の足を踏んでいる。そもそも誰かに対してつぶやきたいことなんてほとんどないし(発信したいことは ウェブサイトで発信している)、他人のどうでもいいつぶやきを見たいとも思わない。もちろん不毛なつぶやきだけではなく、ビジネスや趣味や生活に役立つ情 報もたくさんあるんだろうけど、それにしても他人のつぶやきを四六時中チェックしなければならないというのは鬱陶しいし、なによりそれに割く時間とエネル ギーがもったいない。もっとほかにやるべきことはたくさんある。そんなことを言っているうちに、時代の流れに取り残されていってしまうのだろうが、とくに 必要性を感じていないのだから仕方がない。
まあ、自分のことはさておき、ツイッターやFacebookを日常的に使いこなしている人が多いこと には驚くばかりだ。山に登っているときでも、休憩時にザックからスマートフォンを取り出し、「今、●●に着いたところ。頂上までもうちょっと」なんてつぶ やいている光景は、もはや全然珍しくない。考えてみれば、携帯電話を通して自分の山登りの実況中継を不特定多数の人に流せるのだから、すごいっていえばす ごい。
で、そうなると、ヤバい状況に陥ったときに、「××山で遭難なう」なんてことを発信する輩も出てくるのではないかと思っていたら、やっぱり現れた。

 今年の5月29日、四国霊場八十八箇所を遍路で巡る体験取材をしていた38歳の女性ライターが、台風2 号の影響による悪天候のなか、第六十番札所の横峰寺へ向かう途中の山中で道に迷い、翌日、県警や消防の救助隊に発見・救助されたという事例がそれ。登山中 ではなく遍路中の遭難ではあるが、状況としては山中の道迷い遭難であることに変わりはない。
道に迷っているとき、彼女はツイッターで「やばい 迷った」「 蛍光ピンクのテープとぎれた」「ごめんなさい森で救助まち」「消防の方へ近くに木がない明るい場所もあります」「綱付峠のふだの結構先あたりで歩行不可」 などと、自分の置かれている状況を発信していた。一方で、横峰寺を通して119番に救助を要請し、携帯電話で救助隊員とも連絡を取り合っていたようだ。し かし、よもやの遭難でパニックに陥ってしまったらしく、経緯や状況を的確に伝えられないまま、日暮前には携帯電話のバッテリーが切れてしまったという。
このような遭難時にツイッターやFacebookを利用するのが適切かというと、私はそうは思わない。不特定多数に向かって「遭難した」とつぶやけば、そ れを心配した人たちのやりとりによって情報は錯綜し、救助に当たる人たちを混乱させることになってしまうからだ。先の東日本大震災のときにも、ツイッター やFacebookが役に立ったという報道がたくさん見られたが、その反面、こうした弊害も指摘されていた。
山で遭難したときは、ツイッターな どでつぶやいている暇があったら、さっさと119番に通報して救助を要請し、あとは救助隊との連絡のために携帯電話のバッテリーを温存しておくのが賢明と いうものだろう。かの女性にしても、ツイッターなどしていないで最初から救助隊とのやりとりに専念していたら、その日のうちに助けられていたかもしれな い。

 余談だが、2009年5月4日、友人と2人で恵那山に登った43歳の男性が、下山途中ではぐれて道に迷 い、携帯電話で救助を要請するという遭難事故が起きた。男性の携帯電話はGPS付きだったので、おおよその場所は判明したのだが、現場を特定する前にバッ テリーが切れてしまった。要請を受けた岐阜県警と長野県警はヘリを飛ばし、地上からも警察や民間の救助隊員を投入して捜索を行なったが見つからず、結局、 4日後に遺体となって発見されたのだった。この話をしてくれた岐阜県警の山岳警備隊員は、「携帯電話のバッテリーが切れていなければ絶対に助かっていた」 と言っていた。
また、樹林帯のなかにいる遭難者をヘリで捜索するのは至難の業とされているが、電波が通じるのであれば、携帯電話が発見に役立つ こともあるそうだ。つまり、遭難者がヘリの搭乗員と携帯電話でやりとりし、「ヘリの音がどんどん大きくなってきました」「機体の左側が見えています」 「今、ヘリが真上にいます」といったように、ヘリとの位置関係を伝えることによって居場所を特定していくわけである。
樹林帯のなかでも、携帯電話をこのように使うことによって、発見してもらえる確率が向上するのは間違いない。だが、それもあくまで携帯電話が通じれば、の話であり、バッテリーが切れてしまっていたのではどうしようもない。

 誰も自分が山で遭難するなんて思ってもいないだろうから、ツイッターやメールなどで山にいることの喜び や楽しさを発信しようとする。それは別に悪いことではないが、万一、山で遭難したときには、携帯電話のバッテリーの有無次第で助かることもあれば、助から ないこともある。それを考えると、呑気にツイッターでつぶやきまくってバッテリーを無駄遣いするのは得策ではない。イザというときのために、無事下山する までは携帯電話の使用を最小限にとどめておくべきだろう。

 ところでイギリスでは、遭難した登山者が携帯電話の写メによって危機を脱したという実例があるそうだ。 その登山者は、友人と2人で湖水地方の山に登り、下山中に転倒して腕を骨折。行動不能に陥ってしまったことから救助を要請したのだが、現在地がどこなのか まったくわからなかったため、携帯電話で周囲の景色を撮影し救助隊に送信した。その写真を分析したところ、遭難場所が特定でき、現場に駆けつけた救助隊が 遭難者を救助して事なきを得たのだった。

 携帯電話にはこんな使い方もあるということで、ご参考までに。

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