羽根田治の安全登山通信|再考されつつある山岳遭難救助のあり方

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 すっかり更新が滞ってしまって申し訳ありません。もはや旧聞に属する話になってしまいましたが、前回は「信州型事業仕分け」について取り上げたので、今回はその結果を踏まえた話題を続けることにします。

  前述のとおり、このたびの「信州型事業仕分け」には長野県警の「山岳遭難救助活動経費」(以下、県警活動費)と長野県の「山岳遭難防止対策協会負担金」 (以下、遭対協負担金)も対象事業となっていた。その判定の結果は、前者が「現行通り・拡充」に、後者は「要改善」となった。いずれにしても判定人からは 「必要な事業である」と認められたことから、県警も県も「一定の評価と県民の理解を得られた」ととらえているようだ。ただし、最前線で活動する遭対協の救 助隊員からは、「われわれ民間の救助隊員は、身分の保障等がまったくないなかで、警察の救助隊と同じ活動を行なっているのに、なぜ『要改善』となってしま うのか」という声も上がっている。
県や県警の関係者が認識するように、山岳遭難救助という業務の必要性については、おそらく万人が認めるところ だと思う。いくら「登山は自己責任で行なうもの」といっても、自分たちの手に負えない状況に陥ったときにプロフェッショナルに救助を要請するのは当然の判 断であり、それを否定する人は誰もいないだろう。
問題は、救助のための費用を誰が負担するか、だ。今回の信州型事業仕分けで浮き彫りになったのは、まさにその点である。

  信州型事業仕分けの対象となった県警活動費と遭対協負担金は、いずれも長野県民の税金でカバーされている。その是非を判断する県民判定人や仕分け人から は、「必要十分な予算を充てるべき」「県外者に税金を投入する是非について、県民の理解を得られにくい一面もあるが、観光県として必要な行政サービスであ るということをきちんと伝えていかなくてはならない」「安全な登山ができる長野県であるために、更に充実をしてほしい。多くの人に山を楽しんでもらい、従 事する人に十分な補助を」といった意見が出される一方で、以下のような見解・提案も述べられた。
「山岳での特別な所で、救助を県が税金ですべきでないように思う」
「一般人が行かない山岳では、県はできるだけ税金を使うべきではない」
「長野県の税金を使うことは良いと思うが、利用者が全く負担しないのもおかしい気がする。入山税の導入も積極的に考えるべき」
「陸上で街中で病気になって救急車を呼ぶのとは違い、観光地とはいえ、自ら危険な山に行き、救助を求めているのだから、遭難者に救助要請費等何らかの経費を貰っても良いと思う(遭難に遭う人が8〜9割県外の人という点から)」
「冬季の救助の有償化。県民感覚で、危険の多い雪山登山に対して、危険が分かっていて遭難にあった人にどうして県民の税金を出して救助する必要があるのかと思う。自己管理の範囲で救助も有償にするべき」
「登山税の導入は考えてほしいと思う。財政負担も減るし、観光事業として更に発展するのではないかと思う」
「入山税、保険、首都圏の都県への分担金請求、ふるさと納税の活用などを検討すべき時期か。それを財源に世界一の安全山岳観光対策を講じる」

  こうした論議を通して見えてきたのは、山岳遭難救助は必要な事業であると認めつつも、そのすべての費用を県民の税金から負担することに不公平感を感じてい る長野県民の心情だ。その解決策として提案されていたのが、救助費用の有償化や入山税・登山税の導入など、別の財源確保の手段である。
しかし、 民間救助隊はさておき、県警救助隊や県警・防災ヘリの出動についての費用を当事者負担とするのは、現行のシステムではまず不可能だろう。登山税や入山料を 徴収するといっても、どのように(あるいはどのような形で)徴収するのか、入下山が隣県になる場合などはどうするのか、といった問題がネックになってく る。また、登山税や入山料を徴収することにより「遭難救助は行政サービスの一環」ととらえられるようになり、今まで以上に安易な救助要請が増えるのでは、 という懸念も出てこよう。

 救助費用の財源を税金以外で確保するための方策は、そう簡単にはまとまりそうにない。そんなことを思っていた矢先、白馬村を拠点に活動する認定NPO法人「ACT」が、日本初の会員制ヘリコプターレスキュー事業に乗り出すとのニュースが飛び込んできた。
雪崩事故の防止・救助活動などに取り組んできた同法人は、救助活動に特化したヘリコプターを所有することにより、現在の行政ヘリではカバーし切れない山岳 遭難への対応を目指すという。その実現のために打ち出したのが会員制システムであり、希望者は年会費(1万円程度を予定)を収めて会員になり、万一山で遭 難したときにはACTに連絡を入れてヘリコプターレスキューを要請することになる。ちなみに会員がヘリコプターで救助されても、年会費以外の救助費用はか かってこないそうだ。
ただし、運営を成り立たせるのに見込まれる会員数は約2万人。そのほか、初期投資や不足分の運営費の調達、県警ヘリや防災ヘリとの整合性、クルーの養成など、事業を気道に乗せるための難題は決して少なくない。

  ともあれ、今回の信州型事業仕分けの結果とACTの新たな取り組みを見て感じたのは、日本における山岳遭難救助のあり方が再考されつつあるということだ。 そのひとつの大きな柱となっているのが、実現するかしないかは別にして、「救助費用の有料化」であることは間違いない。折しもこの正月には野沢温泉スキー 場や槍ヶ岳、奥穂高岳などで遭難事故が続発し、有料化を巡る論議が再び沸き上がってきている。
これまでにも再三述べていることだが、今後もこの論議が深まっていき、登山者にとってよりよい救助システムが構築されていくことに期待したい。

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