スキー場の“コース外”滑降は悪なのか?

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年が明けて以来、今シーズンはスキー場近辺での遭難騒ぎ・事故が続いている。以下にそれらをざっと列挙してみた。

 

1月 2日 野沢温泉スキー場 スノーボーダー3人がスキー場のコース外を滑降中にルートを誤り、引き返さずに下山しようとしたところ吹雪のため行動不能に。翌日、救助隊に無事保護される。
1月 5日 六日町八海山スキー場 友人2人と同スキー場を訪れていたスノーボーダーが行方不明となる。同日夕方、立ち入り禁止区域で全身が雪に埋まっているところを発見されたが、死亡が確認された。
1月 8日 旭岳スキー場 単独で滑っていたスキーヤーが悪天候のため道に迷い、山中でビバーク。翌日の午後、自力下山。
1月 8日 平湯温泉スキー場 ゲレンデ外で滑降していた山スキーヤーの2人パーティが、「道に迷った」と通報。2人は携帯電話を通じて警察の指示に従いながら下山していたが、翌朝、ひとりが滑落したため、山岳警備隊が出動して救助した。
1月28日 白馬五竜スキー場 ゲレンデトップからコース外の南東斜面を滑降していた山スキーヤー2人が雪崩に巻き込まれる。ひとりは自力脱出したが、ひとりは完全埋没。約5時間後に遺体で発見された。
1月31日 裏磐梯猫魔スキー場 単独で訪れていたスノーボーダーが滑降中にコースを外れ、「現在地がわらなくなった」と110番通報。翌朝、ヘリコプターで救助される。
2月 1日 六日町八海山スキー場 同スキー場でスノーボードをしていた3人のうちひとりが行方不明となる。翌日、山麓駅から約400m離れた沢のなかで無事発見・救助される。
2月12日 シャルマン火打スキー場 コース外を滑走していたスノーボーダー3人のうち2人が行方不明となる。翌朝、ヘリコプターにより発見・救助。このグループとは別に、ひとりで来ていたスキーヤーも行方不明となっており、いまだに発見されず(2月15日時点)。

 このなかで、暗に遭難者を批判するような論調で報じられていたのが、①の野沢温泉スキー場での事例である。当時の一連の報道を改めて見直してみる と、「わざわざスキー場のコース外に入り込んでいって遭難騒ぎを起こし、多くの人に迷惑をかけるなんて……」といったニュアンスが行間から滲み出ているこ とがわかる。
引っ掛かったのは、これがそれほど叩かれなければならないことだったのか、ということだ。
スキー場のリフトやゴンドラを 利用してゲレンデトップまで上がり、そこからスキー場の管理区域外に飛び出していって、人の手の加わっていない自然のなかで滑降を楽しむというのは、バッ クカントリースキーやスノーボードでは当然のように行なわれていることである。もちろん、管理区域外で滑る以上、雪山に潜んでいるさまざまな危険に対する リスクマネジメントを含め、そこでの行動はすべて自己責任となる。それは雪山に入っていく者ひとりひとりが持つべき心構えであり、バックカントリー愛好者 も充分理解していることだと思う。
報道を見るかぎり、野沢温泉スキー場の件でも、遭難者はバックカントリーの経験が豊富で、装備もそれなりに持っていたようだ。少なくともリスキーな場所に入り込んでいくという認識はあったに違いない。だが、それでも遭難は起きてしまった。
彼らにも反省すべき点は少なからずあるだろう。だが、それにしたってちょっと叩き過ぎではなかったか。1月11日付の『東京新聞』によると、警察で事情聴 取を受けた際に、遭難者の態度は「そんなに悪いことですか?」と言わんばかりだったそうだが、態度云々の善し悪しは別にして、そう言いたくなる気持ちはわ からないでもない。バックカントリー愛好者にとってのフィールドはゲレンデはなく、あくまでスキー場から外に出たところなのだから、“コース外”で滑った ことを槍玉に挙げられるのは的外れというものだ。

余談だが、同スキー場を抱える野沢温泉村では、管理区域外を滑走するスキーヤーやボーダーがあとを絶たないことから、管理区域外で遭難して救助さ れた者に対し捜索救助費用の弁償を求められる「野沢温泉村スキー場安全条例」を2010年12月から施行している。結局、このケースでは条例の適用が決ま り、遭難者に捜索救助費用が請求されることになった。

この事例に限らず、前述した今年度のスキー場絡みの遭難事故の報道を見てみると、どうもマスコミや世間一般には「“コース外”滑走はケシカラン」 という認識があるように感じる。それはバックカントリースキー・スノーボードというものが正しく理解されていないことが大きいと思うが、と同時に「コース 外」「滑走禁止区域」といった言葉がはっきり定義されず、混同されていることも一因になっているのではないだろうか。

当然のことながら各スキー場は管理者によって管理されており、その一定範囲を「管理区域」と呼ぶ。スキー場の管理区域内には滑降可能な「ゲレン デ」や「コース」が整備されており、一般スキーヤーやスノーボーダーはリフト券を購入してこれらの滑降可能エリアを滑ることになる。ただし、同じ管理区域 内であっても、雪崩等の危険がある一部斜面などは「滑走禁止区域」「立ち入り禁止区域」とされ、スキー場利用者がそのエリア内に入り込むことは固く禁じら れている。たとえ準備万端整えたバックカントリー愛好者であっても、この滑走禁止区域を滑ることはルール違反となる。
話がややこしいのは、ス キー場の管理区域外の呼び名が混同されていることだ。「管理区域外」といえば単純明快だが、報道ではこの言葉はほとんど使われておらず、同義語として 「コース外」「滑走禁止区域」という言葉が多用されている。ただし、記事によっては管理区域内の「コース外」「滑走禁止区域」を指している場合もある。こ のため、事故が起きたのが管理区域外なのか、管理区域内の滑走禁止区域なのかが非常にわかり辛い。

管理区域内の滑走禁止区域をあえて滑って事故が起きたのであれば、それは非難されてしかるべきだ。あるいは、バックカントリーの知識も装備もな く、ただその場の思いつきで「オフピステを滑りたい」からと管理区域外へ飛び出していって遭難した場合も同様だろう。しかし、バックカントリー愛好者が自 己責任のうえで管理区域外で活動した結果の事故までが、それらと同列に扱われることには抵抗を感じてしまう(管理区域外での滑走について、スキー場が定め ているローカルルールに従っていなかったのなら話は別だが)。
もちろん、いずれにしても遭難したという事実に変わりがあるものではなく、その責 任は当事者らがとるべきだ。ただ、スキー場の滑降可能エリア以外での遭難事故を、すべて「コース外を滑って遭難」という慣例句に当てはめるのは、いい加減 やめてもらいたい。事故の経緯や状況が正しく報道されないかぎり、バックカントリースキー・スノーボードに対する偏見はなくならないだろう。

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