スイスの航空救助隊「Rega」取材報告
あ2017年8月中旬、日本山岳救助隊メンバーが「スイス航空救助隊 Rega(レガ)」の本部を取材訪問し、その報告がjROに寄せられましたので、会員の皆様にご紹介いたします。
1.Rega(レガ)とは
あRegaは1960年に「スイス人命救助協会」から分離独立した100%民間組織で、スイス全土をカバーする“航空機”専門の救助搬送組織である。
あそのカバーエリアはスイス国内におけるヘリコプターによる救助搬送が主であるが、のみならず、海外(世界中)で事故やケガに遭った人をジェット機でスイス国内へ搬送することもおこなっている。
あ本部はチューリッヒにあり、365日24時間体制でスタッフが待機している。スタッフは医師・救命士・パイロット・整備士等を合わせ約350名。
あ司令(コール)センターには国内対応6名・海外対応6名の体制で、救助要請が入れば医師を含むスタッフが直ちに対応を協議し、スイス国内なら15分以内に現場へ到着する。
あ救助ヘリコプターには必ず医師と救命士が同乗し現場へ向う。ヘリコプターには人工呼吸器を始め高度な医療機器が搭載されている。
2.Regaの活動
あその範囲は広く「要請があれば、いつでも・何処へでも・誰でも」救助に向かう。
あハイキングを含む山岳事故はもとより、交通・スポーツ・仕事中の事故や急病によるものから、病気で死んだ家畜まで対応する。ケガや雪のため身動き出来なくなった羊や牛をモッコで吊り下げて山麓まで搬送することもある。
あさらに、地方の病院で処置ができない患者を施設の整った病院や、特殊な治療のできる病院への搬送(二次搬送)も行う。
あくわえて、血液・臓器・血清・医薬品等を輸送したり、医師を送り届けることもある。
あこれらの活動による2016年の出動件数は15,093件にもなる。
あその中で一番多いのは急病人や未熟児及び緊急治療を要する新生児の搬送である。
あちなみに、ハイカーを含む山岳事故は911件、スキー等のスポーツ1,373件、仕事中の対応931件だが、その他大半が交通事故や急病人の搬送である。
3.Regaの費用
あこのようなRegaの活動資金の大半はRega会員(パトロン)の寄付(=会費)で賄われている。
あこの組織へのスイス国民の信認度は極めて高く、国民の約1/3に相当する330万人が会員となりRegaを支えている。
ああ※Regaの会員が支払う寄付=年会費の金額
あああ①大人1名30フラン(約3,450円)
あああ②小家族(親1名と18歳以下の子供1名)40フラン(約4,600円)
あああ③夫婦(大人2名)60フラン(約6,900円)
あああ④家族(両親と18歳以下の子供1名)70フラン(約8,050円)
あああ⑤農家70フラン(約8,050円)
あああああああああああああああああ(いずれも1スイスフラン115円の場合)
4.「安全は有料!!」
あスイスでは「救助でも人や物が動けば必ずお金が掛かる、救急車や救助ヘリコプターの無料出動は有り得ない」との考え方が一般的であるようである。
あRegaでは1回のヘリコプター救助で、平均3,000フラン~3,500フラン(約345,000円~402,500円)の経費が掛かり、利用者は負担をしなければならない。
あしかしRegaの会員は“無料”であり会員以外の場合は掛かった経費を請求されるが、スイス人は保険加入意識が格段に高いため、非会員の場合はほとんどの人は保険で対応するとのことである。
あ先にも述べたが、Regaが救助や搬送をするのは病気やケガ等全ての場合なので、必然的にRegaへの加入率も高くなっている。
あ日本では各自治体における「救急車を始め救助(ヘリコプター含む)は無料」と言う考えが現状であって、有料化はまだごく一部のケースに限定されている。これらをすべて公費(税金)で賄うことの是非は、今後「平等負担」の観点から見直しの論議が必要とも思われる。
5.Regaへの救助要請
あRegaへの連絡方法は、電話ならスイス国内全て局番なしの電話番号“1414”。
あスイス国外からは、0041(スイス国番号)に3を9回ダイヤル(プッシュ)すれば世界中から連絡できる。
あまた、2010年からはスマートフォンに無料アプリを提供しており、「アイ・レガ(iRega)」という。
あこのアプリをダウンロードしていれば、2回の操作でRega司令センターと通話を開始でき、それと同時に位置情報や個人情報等のデータも自動で送信される。
6.Regaの航空救助技術
あRegaのヘリコプター救助技術には目を瞠らされる。例えばアイガー等の岩壁での事故者救出には、なんと200mのロープを使用する。
あ通常のウインチは70m(全長90m)であるが、Regaが開発したシステムでは
①ヘリコプターのホイストフックに20mのスチールケーブルをセットし、その先に横揺れ防止のための
あ25㎏のブイをセットする。
②ブイへ200mのロープを接続し、救助隊員がぶら下がる。救助隊員は最長5mまで伸びる伸縮フックを
あ携帯し、それで事故者とコンタクトする。
あ日本では考えられない、この柔軟で合理的な救助システムにわれわれ取材メンバーは感動を覚えた。
7.Regaの基地とネットワーク
あRegaはスイス国内にチューリッヒの他に12ヵ所の基地を有し、ヴェリス州の「エアー・グレッシャー(Air Glacier)」、ツェルマットの「エアー・ツェルマット(Air Zermatt)」と協力体制にあり、合計で17機のヘリコプターを運行している(平地用ヘリコプター6機・山岳用ヘリコプター11機)。
あまた、スイス国内にある「スイス人命救助協会(SLRG)」「スイス事故防止事務局(bfr/bpa)」「スイス・アルペン・クラブ(SAC)」「スイス・アルペン救助隊(ARS/SAS)」等と協力体制を整えている。
あスイス国内の役割分担として、Regaは警察や消防等のヘリコプター輸送をも担っている。
あ航空搬送以外の山岳救助・捜索は先の「スイス・アルペン救助隊」が担い、隊員は約3,000名、救助犬約150頭を擁している。この救助隊員は全員一般の社会人であり、
救助要請が入ると勤務先や仕事を休んで出動する。出動を拒む勤務先は社会から“非難”されるとのことで、救助活動に参加することの社会的な障害はないとのことである。
あわれわれ取材メンバーにとっては極めてうらやましい社会土壌であると感じた。
8.Regaの航空装備
あRegaのヘリコプター13機のうち8機はアグスタA109K2、1991年から1995年に導入された機材で、770馬力のエンジン2基をそなえた双発機である。Regaにとっては基本的なヘリコプターであり、高地での性能にすぐれているため、主に山岳地帯の基地で使われている。
あRegaのもうひとつの機種は、ユーロコプターEC145。これは2002年に5機購入している。A109よりもひと回り大きな双発機で、主に平地のヘリコプター基地に配備し、交通事故や急病人の救急に出動する。これも90mのホイストを装備している。
REGA EC-145
あ2021年にはヘリコプター3機導入予定とのこと。
あ現在もLVS(雪崩探査機)搭載機や夜間飛行対応等高度な飛行を行っているが、この新鋭機では-20℃でも飛行可能になり、厳冬期や高山での活動が期待される。
あさらに、救急用ジェット3機を持っている。カナデア・チャレンジャーCL604だ。機内は集中治療患者2人の搭載が可能。ストレッチャーだけの患者ならば4人まで収容できる。航続距離は6,500km。患者を日本で収容し、スイスに送還したこともある。乗員は原則として操縦士2人、医師1人、看護師1人。しかし患者の必要や飛行距離に応じて医師や看護師を増やすことも可能。
CL604アンビュランス・ジェット
あボンバルディア社は「2015年4月に、スイス・エア・アンビュランスRega(スイス航空救助隊)からチャレンジャー650を3機確定受注した」と発表した。
あこれは医療用装備などの設置など各種の特殊機器や装備を含め、2015年のカタログ価格で1億3000万米ドル相当の取引である。この機材は各種装備の改修などが行われ、2018年に納入される。
Regaでは今後も装備の充実に力を注ぎ、航空救助力の更なる充実を図りつつある。
9.結び
あ『Regaは今も、これからも、これまで以上の救急搬送装備の充実を図り、Rega会員と会員以外でも要請があればいつでも、どこでも駆けつける体制を整えている』
あ今回の取材に対応していただいたRegaの広報担当マネージャーの力強く、自信に満ちた言葉が印象的であった。
(文責:日本山岳救助隊 北島 英明)