オサムの“遭難に遭う前に、そして遭ったら”|昨今の遭難事故報道に思う

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※日本雪氷学会雪氷災害調査チームHPの報告をもとに作成

雪崩事故報道で起きた発生場所の誤報

今年3月10日、「上富良野岳で雪崩が発生し、バックカントリーをしていた男性が巻き込まれた」というニュースが流れた。
複数の報道によると、この日の午前、上富良野岳の安政火口の北側で雪崩が発生し、バックカントリーをしていた4人パーティ(日本人2人、外国人2人)のうち、カナダ国籍の23歳男性が巻き込まれて埋没した。男性は仲間や現場にいたほかの人たちによって雪の中から掘り起こされたが、呼吸はあるものの意識不明の状態だった。通報を受けた警察の救助隊員がヘリコプターで現場へ向かい、1時間40分後に男性を救助し、病院へ搬送した。

この事故の翌日、日本雪氷学会北海道支部の雪氷災害調査チームが、早くも現場に入って調査を行なった。そしてその日の夜、調査チームのメンバーがSNSに次の一文を投稿した。

〈どうしても今、これだけは言っておきたい。
昨日の雪崩事故が起きた場所は上富良野岳と報道されているが違う。1.2km北にある全く別の山、三段山である。
詳しく言うと雪崩の発生地点は三段山山頂直下の安政火口側斜面(標高1,670m N43°24’54.21、E142°39’32.84)。
埋没して救助されたのは安政火口。付近には夫婦岩がある。どれも上富良野岳とは関係ない。いったい誰が上富良野岳と言い出したのか?
このままだと既成事実化されそうだから声を大にして言っておく。雪崩が起きたのは三段山である。
頼みます、マスコミの皆さん〉

そう、雪崩が発生したのは上富良野岳ではなく、その北側にある三段山だった。
13日に公開された調査報告の速報初版によると、3月10日の午前10時15〜20分ごろ、三段山の安政火口側で表層雪崩が発生し、外国籍の男性バックカントリースキーヤーひとりが巻き込まれ、約2メートル埋没した。男性は同行者らのアバランチビーコンを使った捜索により、約20分後に掘り出され、道警ヘリで救助された。
雪崩は山頂直下の標高約1715メートル付近から幅約100メートルで破断し、安政火口付近まで約530メートル流下する大規模なものであった。調査報告に添付された現場の写真を見ると、雪崩は正しく山頂直下から発生していることが一目瞭然である。発生については、山頂付近から安政火口側へ滑走したスキーヤーがトリガーなった可能性が高いという。
この誤りを受け、富良野署は12日、雪崩の発生場所について、当初発表していた「上富良野岳」から「三段山」へと訂正している。北海道新聞デジタルの記事によると、「同署が発生場所を精査した結果、判明した」そうである。

なぜ誤報が起きたのか

通常、日々発生する事故や事件の情報源は、警察が作成したプレスリリースが元になっていて、記者クラブを通じて新聞、テレビなどの各メディアに提供される。メディアはこれを元に記事や番組をつくって報道するという流れなので、この件についても最初に警察が発表したソース自体に間違いがあったと思われる。
もしそうだとすると、なぜ警察が雪崩の発生場所を誤報道してしまったのか。事故発生の一報は、現場にいた目撃者の男性から「安政火口の北側で雪崩が発生し、1人が埋まっている」との110番通報だったという。別名ヌッカクシ火口とも呼ばれる安政火口は、ヌッカクシ富良野川の上流部に位置しており、火口の南東側に上富良野岳が、北側に三段山がある。地形図で見ると、ちょうどこの2つの山に挟まれるような位置関係になる。通報者が伝えた「安政火口の北側」というと三段山のほうを指すが、そこまで細かくチェックせず、誤認したまま「富良野岳で雪崩が発生」と発表してしまったのではないだろうか。

また、この事故の5日前の3月5日には、上富良野岳の西側の三峰山沢で雪崩が発生し、台湾から来日していたスノーボーダーの15人パーティのなかの44歳男性が巻き込まれる事故も起きていた(2つの斜面でほぼ同時に雪崩が発生。4.1メートルの深さに埋没した男性は同行者らによって掘り出され、道警のヘリで救助された)。この事故の現場も「上富良野岳」と報道されていたため、10日の事故が起きた際に、「間をおかずに、同じ上富良野岳の隣接した場所で、また雪崩が発生した」という短絡的なミスリードがあったのかもしれない。

登山者の役に立つ正確で有意義な報道を

メディアによる事件や事故の報道は、前述したとおり、たいてい警察のプレスリリースが元の情報源となっているが、それを100パーセント鵜呑みにして右から左へ流すのではなく、ちゃんと裏付けをとるのが報道の基本だとされる。だが、山岳遭難事故の報道については、よほど大きな事故でないかぎり、報じられる内容はどの媒体もほぼ同じで、裏付けをとっているようには見えない。小さなスペースに掲載される(短い時間枠で報じられる)遭難事故については、まず迅速性を優先するはずだから、いちいち裏付けをとっている時間などないのだろう。
しかし、遭難に限らず事故や事件の報道で誤った情報が流れてしまうのは、非常に問題ありだと思う。今回のように雪崩の発生した山が間違って報道されたら、極端な話、第二第三の事故が起きてしまう可能性だってある。数年前には「バックカントリー」とスキー場の「立入禁止区域」、あるいは「コース外滑走」といった言葉をマスコミが混同して報道を垂れ流し、バックカントリー愛好者に「ルールを守らない悪人たち」というレッテルが貼られてしまったのは記憶に新しいところだ(この件については、いまだに「バックカントリーの定義を理解しているのだろうか」と疑問に思う報道が見られる)。

また、誤った情報が流れるのと同じぐらい危惧しているのは、遭難事故報道のなかにはあまりにも簡略的すぎるものがあることだ。たとえば最近では、「80代の女性が○×山を下山中にケガをして、通りかかったほかの登山者が119番通報し、ヘリに救助された。命に別条はない」という報道があった。では、事故が起きたのは○×山のどのコースのどのあたりなのか。ケガの原因は転倒なのか、滑落なのか、落石なのか。「命に別状はない」かもしれないが、ケガの状況はどの程度なのか。我々が知りたいと思うそうした情報、つまり同様の事故を予防するために役立ちそうな情報がまったくわからないわけである。
これは極端な例かもしれないが、我々の知りたい情報が不足していて、ごく大雑把な概要しか知ることのできない手抜き報道が増えつつあるような気がしてならない。

メディアの意義というのは、日々起きていることを正確に記録して広く伝えることだが、山岳遭難事故報道は事故防止を広く啓蒙する役割をも担っている。そのためには、まず警察などの関係機関が正確なプレスリリースを流すこと、それを報道するメディアは、基本に立ち返って、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)の「5W1H」を明らかにし、情報を正確に伝えることが必要だ。
もちろん迅速性を犠牲にしろというつもりはない。だから最初は把握できている事実だけを報道し、その後は明らかになった情報を順次流していけばいい。
そのようにして、正確で有意義な報道がなされることを切に願う。

羽根田 治(はねだ おさむ)

1961年埼玉県生まれ。那須塩原市在住。フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を山岳雑誌などで発表する一方、自然、沖縄、人物などをテーマに執筆活動を続ける。『ドキュメント 生還』『人を襲うクマ』『山岳遭難の傷痕』(以上、山と渓谷社)など著書多数。近著に『山はおそろしい 』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)、『これで死ぬ 』『ドキュメント 生還2 』『あなたはもう遭難している』(山と渓谷社)がある。

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