雲から山の天気を学ぼう|(68)寒冷前線が接近するときの雲partⅡ~西穂高・丸山~

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寒冷前線が接近するときの雲partⅡ~西穂高・丸山~

前回は、寒冷前線が接近するときの天候の悪化について、天気図から予想する方法を学びました。今回は、雲の変化から早めに天候の悪化を察知し、避難行動につなげる方法です。

冬季に寒冷前線が接近するときは、下図(図1)において、DからCに向かって天気が変化していきます。つまり、初めは青空に積雲が浮かんでいる程度(南西側に海がある山岳では早めに雲に覆われることがあり、暖候期には前線からやや離れたD側で風雨が強まる山もある)ですが、寒冷前線が接近すると、積乱雲群が現れ、やがてそれに覆われると激しい雨が降り、雷を伴うこともあります。そこで、まずは寒冷前線が接近する方角の空を確認することが大切です。

図1 寒冷前線付近で発生する雲

Ⅰ.寒冷前線が接近する方角の空を確認する
寒冷前線が接近するときは、前線がある方角の空を確認します。

図2 4日の夕方に確認した、3月5日9時の予想天気図(気象庁HPより)

図2をご覧いただくと、寒冷前線は北アルプスの北西側から近づいてきます。そのため、北西側の空を確認するということになります。西穂高岳周辺では笠ヶ岳~抜戸岳方向の空ということになります。

写真1 栃尾付近の蒲田川と西側の空

残念ながら、新穂高ロープウェイ駅に向かうまでの車中では、山間部を走るため、北西側の空が眺められる場所がありません。そこで西の空を眺めると、青空に積雲と呼ばれる雲が浮かんでいて、天候を崩す兆候は特に見られません(写真1)。

写真2 南側の空を眺めると、雲が少し“やる気”を出してきている

他の方角の空を見てみると、雲がモクモクと上方へ成長して(“やる気”を出している)きています。このような兆候が見られるときは注意が必要です。

写真3 新穂高温泉付近からの笠ヶ岳方面の空

新穂高温泉が近づくと、笠ヶ岳方面の空が暗くなってきました。寒冷前線に伴う雲が接近してきていることを物語っています。

写真4 新穂高ロープウェイの車窓からの中崎尾根と抜戸岳~双六岳方面の空

やがて暗い雲は全天を覆うようになり、西穂高口に到着した頃には、雪もちらついてきました。天候悪化は明瞭ですが、今日は西穂山荘まで(丸山往復の可能性は残す)で、森林限界を越えることはないため、前進することを決めます。心配なのは前線通過時の落雷でしたが、雨雲レーダーや雷レーダーを確認したところ、活発な雷雲は大分北側を通るため、リスクは小さいと判断しました。

写真5 吹雪の中、西穂山荘到着

西穂山荘に到着する頃にはご覧の通り、吹雪に。ここで登りが苦手なお客様一人を除く残りのメンバーで西穂・丸山を目指します。もちろん、天候悪化で丸山登頂を止めるという選択肢は正解ですが、ここでは現場を熟知している渡辺幸雄さんが同行していたので、視界が非常に悪くなっても西穂山荘に辿り着ける自信があったこと、天気を学ぶツアーということで、吹雪になったときにどういう状況になるのかを学んでいただきたいということで出発。というのも晴れた日にしか登っていないと、いざ天候が悪化したときに、どの位厳しい状況に追い込まれるのかが分からないからですね。天気予報で晴れの日にしか行かない人が陥りやすいのが

  • エマージェンシーシートやツェルト、非常食などの緊急時の装備を持参しない
  • 視界が悪くなると、どういうことになるかの想像力に欠ける(道迷いや雪庇踏み抜きのリスクを軽視)
  • 暴風雪下でスマホを使って地図アプリを確認することの困難さを知らない。よって印刷した地図を持たずに吹雪に遭遇して道迷い→低体温症
  • 低体温症の怖さを知らない。予防法、処置法を知らない
    また、怖さを知れば、天候が悪化していく兆候が見られたときに、引き返すという選択肢を取るのですが、知らないと何となく前進してそれこそ、致命的な結果を生むことになるからです。残念ながら、先日も谷川連峰で天候が昼頃から急変する日に、暴風雪の中、身動きが取れずに2名が亡くなってしまうという事故が起きました。
    さて、登山を継続するにはギリギリの風速15m/s前後の猛吹雪の中、登頂。帰りは視界がほとんど効かない中、渡辺ガイドのさすがのルートファインディングで無事、西穂山荘へ。安全地帯がすぐそばにある所で、信頼できるガイドさんや経験者の元で猛吹雪を体験することは良い勉強になりますが、そうでない場合は決して実行しないでくださいね。

写真6 猛吹雪の西穂・丸山

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

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猪熊隆之(いのくまたかゆき)

国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテン http://yamatenki.co.jp/ の代表取締役。中央大学山岳部監督。国立登山研修所専門調査委員及び講師。カシオ「プロトレック」開発アドバイザー。チョムカンリ登頂(チベット)、エベレスト西稜(7,700m付近まで)、剣岳北方稜線冬季全山縦走などの登攀歴がある。著書に山の天気にだまされるな(山と渓谷社)、山岳気象予報士で恩返し(三五館)、山岳気象大全(山と溪谷社)。共著に山の天気リスクマネジメント(山と渓谷社)、安全登山の基礎知識(スキージャーナル)。

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